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番外編 「黒瀬の休日」
朝、目が覚めてすぐに顔を洗う。そこで初めてちゃんと目が覚める。
朝食は軽めにし、運動着に着替えて訓練室へ向かった。
だが、そこには先客の姿があった。その人物は俺がCEの中で最も毛嫌いしている人間だったため、思わず顔を顰める。すると突然、相手がこちらに視線を向けてきたため目が合ってしまった。
「あら~凜ちゃんじゃない、どうしたの~? こんな朝早くから」
「トレーニングだ。お前こそこんな早朝に何してる」
俺はこの女から滲み出る雰囲気が好きではなかった。何より桜川という人間はCE内でかなりの問題児であり、多くの人間が彼女の被害に遭っている。だが、桜川はその事を注意されても反省する素振りを見せない。
「邪魔だ、退け」
「えぇ~ひどーい。お姉さん傷ついちゃうな~」
俺は桜川の発言を無視し、棚からマットを取り出し床にひく。その上で入念にストレッチを行いながら、筋トレのメニューを頭で組み立てる。だが、それを邪魔するように背後に突如重みがかかってきた。
「…退けと言ったはずだ」
「ふふっ…いや♡ でも、私の言うことひとつ聞いてくれるなら退いてあげる」
そう言った桜川は胸を背中に押し付けながら下半身に向かって指を伝わせてくる。俺はその指をへし折ってやりたい気持ちに駆られたが、あくまで冷静に手で押し返す。意外にもその指は大人しく肌から離れた。
「ねぇ、凜ちゃん…本当に真面目にお願いがあるの」
桜川の声がいつものふざけたものと違い、真面目なものに切り替わるのを感じた。俺はその声に耳を傾けるように背後を振り返った。
「ファンクラブの子、いらないなら私にくれない?」
「俺の視界から失せろ、淫乱女」
俺の休日をこいつに消費されているのかと思うと無性に腹が立ち、背中に寄りかかっている相手の体を振り落とす。それによりバランスが崩れた桜川が尻もちをついたが、気にせずストレッチを続けた。
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