第1話殺し屋とあたし

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第1話殺し屋とあたし

どうして、自分は普通に生まれることができなかったのだろうと常に考えている。 ただ、可愛いものが好きなだけで馬鹿にされて、親に否定されて、男の人が好きというだけで気持ち悪いと軽蔑される毎日。 高校を卒業する時には、自分を殺すことに慣れていた。喋るときの一人称は俺に、服装だって男としての服を着た。 そうすれば、皆が自分を受け入れてくれた。でも、自分だけはやはり変わっていく自分を受け入れられなかった。 何度吐きそうになったことか、男として生きる自分を鏡で見るたびに鏡を割りたくなったことを親は知らない。 「あたしを受け入れてくれる人は誰もいない…」 地獄の中で生きる術は、私を殺し続ける。けれど、そんな日常は今日突如終わりを迎えた。 家に帰ると、あたしを否定し続けた母親は弟の手によって命を落とした。 「何やってるの…[[rb:林司 > りんじ]]!」 「こいつが悪いんだ…俺の人生奪ってる癖に笑って生きてる!姉ちゃんだってそうだろうが!」 「だからって…親を刺していい理由にはならないでしょ!」 「うるさいうるさいうるさい!姉ちゃん、母さんに男の癖に女の恰好するの否定された時の気持ち…よく分かるだろ? 俺だってそうだよ!行きたい学校に行くのは間違ってるって否定されるのが俺は嫌だったんだよ…」 「…林司、一緒に警察に行こう?あた…俺は林司が優しい子って知ってる、だからね?」 「もう、遅いよ…ばいばい姉ちゃん」 「…ダメ____」 あたしの声が途切れた時に、弟の首が一直線に切断された。首から溢れ出る血に弟が死んだことがわかった。 けれど、弟が自分で首を切ったわけではなかった。弟が手に取っていた包丁は、首を切るには刃の長さが足りなかった。 いったい、誰が弟の命を奪ったというのだ。 「綺麗な家族愛でも目指しているのか?」 「?!」 「はぁ…こんな奴が新しい執行人候補とは呆れる」 「し、しっこうにん?」 「…ちっ…これだから一般からのスカウトは嫌いなんだ」 「すかうと…?何の話をしているんですか、人の弟殺しておいてなんでそんな冷静なんですか…」 「お前の弟は殺人をおかした、だから俺に殺された。ただ、それだけだ」 「…逃げなきゃ…」 あたしは震える手足を少しずつ引きずりながら背後にあるドアに向かって下がった。 「逃げるのか?」 あたしはその発言の通り、逃げるためにドアを勢いよく開いた。だが誰かの手が私の顔に触れて意識が飛んだ。 ______________________________________________________ 「あ、起きた?」 「ひ…だれ…だれですか?」 「えっと…僕は、[[rb:宮嶋春馬 > みやじまはるま]]。ここの専属医として働いてるんだ」 「お医者さん…ここは病院なんですか…」 「あれ、もしかして黒瀬君から何も聞いてない?!」 「…くろ…せ?誰ですか…」 「あっちゃ~黒瀬君色々と乱暴なんだよねやり方…そっか、じゃあ此処の事から説明した方がいいね」 「…て」 「え?」 「家に帰してください…弟が…弟の葬式をしなくちゃ…」 「えっと、それはちょっと難しいと思う…もう、全部無くなってるから」 あたしは医者と名乗る人間の言葉に理解が追いつかなった。全部無くなっているとはどういうことだ。 説明を求めれば求めるほど彼から語られる事実は、変わらなかった。あたしの家はすでに売却され、弟の死体も母の死体も 医者の仲間が処分したとのことだった。 唯一生きている父は、どうなっただろうか。家に帰って戸惑っているかもしれない、早く家に帰らなくては。 「え!ちょっと鈴成さん!」 あたしは医者の言葉を無視して病室のような部屋から出て、ただがむしゃらに走った。どこに行っても、誰もおらずコンクリートの壁と床と蛍光灯だけの空間を不気味に感じながらも、ただただ走った。 走っていると窓を見つけ、近づくと外の様子を見ることができた。 「人…あの!助けてください!知らない間にこんな、ところに、連れてこられて__」 「うるさい」 「ひゅ…貴方、弟を殺した__くろせ」 「あの医者俺のこと教えたのか…はぁ、叫ぶ元気があるならついてこい」 「…いや」 「上官がお前を連れてこいと命令したんだ。それとも弟と同じ運命を辿るか?」 「……」 あたしは弟の最後を思い出し黒瀬の後を大人しくついていった。歩いている途中で人とすれ違ったが、誰も黒瀬に話かけるものはいなかった。あたしが、上官とやらは何処にいるのだと黒瀬に聞いても何も答えてもらえない。 どうやら喋るのが嫌いらしい黒瀬は、顔が非常に整っている。正直、先ほどまで恐怖が勝って直視できていなかったが、モデル顔負けレベルでイケメンな顔立ちをしていてこんな顔なら母も文句を言わなかっただろうなと思った。 「おい」 「え…なんですか…」 「このスキャナーに手をかざせ」 「スキャナーなんて…ありませんけど」 「目の前の壁に触れろと言っているんだ」 「目の前?」 「ちっ…さっさとしろ」 「痛い!」 黒瀬はあたしの手首を掴むと、目の前の壁に押し付けた。すると、コンクリートだと思っていた壁が透明なものに変わり中にいる 人の姿がぼやけてだが見えた。 「俺の上官だ。そして、これからお前の上司になる人間だ」 「…え?…」 「お前は今日から殺し屋として育てられる」 「……殺し屋?」
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