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第2話 前へ
「ちょっと待ってください…殺し屋?
殺しは犯罪でしょ?!」
『表向きに法の下に置いて殺しというのは許されざるべきではないと書かれている』
「だったら_」
『しかし、日本も国外でも未だに殺しというワードが日常的に蔓延っている…日本は確かに他国に比べたら犯罪係数は低い。
だが結局それだけだ、根底である犯罪を起こさないという目的には誰も着手してこなかった』
姿のない声は私の言葉を肯定したかと思えば、自分の意見にも耳を傾けろと話し出した。確かに声の主の通り、日本でも殺しというワードは湧き水のように流れてくる。殺した理由なんてくだらないものから、納得せざるを得ない理由のある殺しもあった。
だけど、どれも同じ命だ。犯罪者も1人の命を持った人間であり、それを一方的に奪っていい訳ではないはずだ。
『今、君は犯罪者だからと命を奪っていい理由にはならないと
考えているのだろう』
「なんで…」
『君は考えていることが顔に出やすい、仕事をする上で失敗を招く要因になりうる…教育施設に通達しておこう』
教育施設とは何だ。あたしの頭の中に次々と雪崩のように勢いよく単語を入れこまないで欲しい。頭の回転は昔からあまり良くないのだ。
段々と理解が追いつかなくなってきた脳が悲鳴をあげて、頭痛を起こしている。神様がいるのならお願いします、明日から何も悪いことはしません。だから夢から覚ましてください。そんな願いは届くことなどない。なぜなら、この世に神様などいないからだ。
『__だ。後はNo.27君に一任する』
1人で頭を悩ませている間にも喋りは続いていたようだ。けれど、あたしは途中から何も聞いてなかった。
いや、そもそもなんであたしは此処にいるのだっただろうか。
ああそうだ。林司が母を殺した後に帰ってたら、黒瀬が弟の首をはねたのだ。
「本当に使えるんだろうな?」
『あくまで候補だからね、様子見だ』
「あの_上…司さん」
あたしは口を開いて出た声が震えていることに気が付き、落ち着かせるために深呼吸をした。
吸って吐いて吸って吐いてを繰り返せば、段々と喉の硬直はとけた。けれど、心の決心はまだついていなかった。
なぜなら横には自分の弟を殺した人間がいる。今からあたしの口で話す内容は、この男の怒りを買うかもしれないものだ。
だが、弟の仇を取るにはこの方法しかない。
「俺はこれから殺し屋として育てられるんですよね?__殺し屋同士の
殺しは此処では認められていますか?」
『…基本的にCE内での殺しは正当な理由がない限りは認めていない』
「基本的にってことは、理由があれば殺しても構わないって認識でいいですか?」
『それは私の判断で決める事だ』
「なら__此処で働けという要望には応じます…でも、俺の条件も一つだけ呑んでください。俺は此処に理由も知らされずに連れてこられて不快な思いもした…その権利はあるはずです」
あたしは、あくまで余裕を持って言葉を吐き出した。たぶん、あたしの条件は棄却される。なぜなら、声の主とあたしでは立場に圧倒的な格差がある。
黒瀬が声の主を上官と呼んでいたのを考えたら到底、あたしの言葉などに惑わされる人物じゃないというのは分かっているのに。人間というのは、時に理屈より感情を優先してしまう生き物なのだ。そんな卑屈な思考を回すことで正気を保っていると、声の主があたしの名を呼んだ。
『_いいだろう、対価条件だ。君は何を望む?』
あたしはたぶんこの時間抜けな顔をしていたのだと思う。だって、声の主が私の交渉に応じる可能性など普通に考えれば
ゼロに等しいからだ。
隣にいる黒瀬が鋭い眼光で声の主を睨んでいた。あたしはその目を見て体がビクついた。
けれど返事をしなければいけない状況にしたのは自分だ。あたしは意を決して口を開いた。
「…弟を殺した黒瀬を殺す権利をください…」
「っは_素人のお前が俺を殺すって?馬鹿馬鹿しい」
『No.27に私個人も同意だ、素人の人間が殺せるように教育はしていない』
「…わかってます、でも此処は教育施設があるんですよね?俺がそこで結果を出せば殺しの許可を下ろせる…違いますか」
声の主は負けじと反論するあたしに対しても声色を変えることなく、淡々と事実のみを伝えてきた。
あたしが有利に動こうとすればするほど、相手の余裕を見せつけられる。隣の黒瀬はあたしの発言から実現の低さを指摘した。あたしは少し前までの冷静さを何処かに置いてきてしまい、焦りが徐々に上昇してきていた。
どうすれば、この人たちを納得させられる発言をすることができるだろうか。
負のループ思考が頭を巡ってうつむいていると、視界の端に誰かの足が映った。
誰かと頭を上げると、そこにはあたしよりも小さな女の子が傍に立っていた。
「No.19、此処で何してる」
「黒瀬さんが押し付けた報告書の提出しに来たんです。でもタイミング悪かったみたいですね、時間を改めます」
『待てNo.19』
あたしが引き留めようとする前に、声の主の言葉が彼女を縫い留めた。
『先の任務の件ご苦労だった』
「…いえ殆どNo.18とNo.27の活躍でしたので、私は何もしていません」
『確かに任務自体での活躍は無いが、2人の仲介役として大きく貢献してくれている。特にNo.27はNo.18に対して一方的な嫌悪で仕事に支障が出るからね…その分君は誰と組ませても優秀で助かるよ』
どうやらこの女の子も黒瀬と同じ殺し屋のようだ。けれど、何と言うのだろうか。
彼女からは黒瀬から感じる威圧が無い。まるで、あたしと同じで一般の社会で生きていそうな雰囲気の女性だった。
「上官…さっさと話を終わらせてくれ。無駄な時間は嫌いだ」
『ああ、そうだったね…鈴成蓮、悪いが君の要求を吞むことはできない。こちらも優秀な人材をそう簡単に贄として差し出す訳にはいかないんでね』
「…そうですか」
あたしはその言葉に再度心を砕かれて完全に諦めようとしていた。だが、次に耳に届いた言葉に声を漏らしてしまった。
その声は、黒瀬ではなく要求は呑まないと言った人物の声だった。
『だが仮に君が候補から選抜され、実力を伴った暁には要求を呑んで殺しの許可を下しても構わない_どうかね』
先程と言っている事が全く違う。優秀な人材を殺させる訳にはいかないのではなかったのか。
「え…でも、さっき__優秀な人材は殺せないって…」
『それは今の君の話だ。一般人のままの君では殺すどころか殺されて終わりだ…そこで君にハンデを与えてチャンスを
やってもいいと提示している』
「ハンデ?」
『そこにいるNo.19に指導してもらいなさい、彼女は君と同じ元一般人だからな』
あたしの耳に入ってきた単語は脳で上手く処理するのに時間がかかった。だが、口は耳に入ってきた単語を繰り返して動いていた。
「一般人?」
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