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11月5日、現在時刻午後13時45分。羽響は教育施設の前に来ていた。 『パスの再発行を行います。登録カードをスキャナーにかざしてください』 機械音声の指示通り胸ポケットにクリップで止めている個人情報の入った登録カードを画面にかざす。 ピッとした読み取り音の後に履歴の確認項目を慣れた手つきで押していけば、確認終了の文字が表示され、発行口から自分の顔写真とバーコードのついた長方形のプラスチックカードが出てきた。 それを登録カードと付け替えて教育施設の方向へ歩いていく。 『アドミッションパスの確認を行います、その場でお待ちください』 機械音声がすると同時に胸元のパスの顔の照合と、バーコードに記録されている登録情報の確認が行われる。 その他にも網膜認証、生体認証を用いて強固なセキュリティにて安全と確認されることで初めて教育施設への入場が許可される。 『照合情報との一致を確認。入場を許可します』 私の耳にその音声が届くと、目の前の扉が自動的に開いた。扉の先には案内人が待機しており、私はその後を付いていく。 「おはようございますNo.19様、本日の案内は私が担当させていただきます」 「わざわざありがとうございます」 互いに形だけの挨拶を交わし、施設内を歩く。今回は鈴成蓮の現状を確認するように命令を受けてきた。 今年の執行人候補者の人間達は、例年よりも曲者揃いのため下手をしたら死にかけていてもおかしくない。 上官にとって都合のいい人間だけが選ばれた者たち、それが執行人だ。使えなければ即時に見切りをつけられ、諜報部隊もしくはそのまま処分コース何て事もある。 「鈴成の部屋です、今は訓練場で教官のカリキュラムに取り組んでいるので戻ってくるのは19時頃になると思います」 「そうですか…だとしたら早く来すぎましたね」 「あの…でしたら少し困っている問題があるのでそちらに力添えしてくださいませんか?」 「問題ですか?」 「はい…あのNo.18様の件でして」 「…また、何か問題を?」 案内人の話によるとここ最近カリキュラム終了時刻に現れては、候補者達で遊んでは問題を起こしているとの事だった。 大方、想像はついたが案内人が頭を悩ませているという事は毎度問題を置き土産にしているのだろう。 案内人の苦悩を察しながら、桜川の元に案内するように指示を出す。案内人は疲れ気味な声でありがとうと口にしていたが、 目が完全に死んでいた。 後で上官に進言して、桜川への厳重注意を促すことを決めた。 「この部屋です…中でたぶん…あの…その」 「?」 「いえ…では私はこれで」 案内人は顔を赤らめながら本来の職務である監視室に戻っていった。私は案内人の姿が見えなくなると、ドアの向こうにいるはずの桜川を注意する言葉を考えながら、ノック後にドアノブを思い切り捻り引いた。ギイと嫌な音を立てながら開いたドアの向こうには、見慣れた人物の金髪と見慣れない黒髪の長髪の女性がソファに居た。 だが明らかに普通に会話をしていたにしては着衣に乱れがある上に顔も、案内人のように赤らんでいた。 「はぁ…あ…はぁ…」 「アナタが楽しいことしたいって言うから遊んであげてるのに…先にへばってどうするの~?」 桜川が女性の尻に触れながら爪を立てた。女性はそれに反応するようによがった声を出す。 案内人が何故顔を赤らめて立ち去ったのかドアを開けた後に理解し、入ったことを今更後悔した。 その後も桜川の行為はエスカレートし最終的に黒髪の女性が私の存在に気が付くまで続いた。 「あら、櫂ちゃーん♡珍しいわね、教育施設に来るなんて~」 「…あ…!_んっぅ!!_ん…ん」 桜川の下でよがった声を出していた黒髪女性は気絶しながらも吐息を漏らしていた。彼女の体を覆い隠す服は床に散らばっており、素肌が照明の光によって赤裸々と見えていた。 私は気まずくなり彼女を視界に入れないように壁を見つめてやり過ごす事にした。 「今日は何でココに来たのー?」 「鈴成蓮の現状確認です、まさか貴方がいると思いませんでしたが…」 「今日は女の子で遊びたい気分だったのよね~この子最近フラれて傷心してたみたいでね、私に縋ってきたの」 「…服着せてあげたらどうですか」 「それもそうね~服拾ってくれる?」 私は雑に投げ捨てられていたワイシャツとスラックスを拾い上げた。下着はソファの背もたれにかかっているのを確認し、その2つを投げ渡した。 「ありがとう、ほら~起きてー」 「…ん…」 「てか…その人誰なんです」 「えー知らない? 凛ちゃんのファンクラブの子」 「そんなのあるんですか、初耳です」 私は心底驚き目を見開いた。黒瀬凛という男がモてるという事実は知っていたが、ファンクラブがあるとは知らなかった。 そもそも本人が存在を許さないような気がしていたが、そうでも無いようだ。 たぶん、黒瀬の場合眼中に無いだけだろうなと思いながら桜川の発言を一言一句聞き流さないように耳を澄ます。 「櫂ちゃんはアイドルとかそういうの興味無さそうだもんね、 凛ちゃん顔はいいけど性格があれだから…女泣かせなのよ」 「…まあ、万人受けする性格では無いですね」 「でしょー?だからこうして慰めてあげてるの~」 「弱みに漬け込んでいるようにしか見えませんけど…」 彼女の素肌がようやく全て覆われてから桜川に焦点を戻した。女性は未だに気絶したままで、死んだように眠っていた。 一応肩が小さく上下して呼吸しているのを確認し、桜川に案内人からの苦言を伝えようとした。その時、 『施設内の職員に伝達しまーす! 現在CE内および教育施設内に爆弾がしかけられましたー!』 機械音声ではなく人間の声が施設内に響いた。
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