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「原田ウメですね」
朝と同じ声の刑事……
「住居侵入罪で現行犯逮捕します」
老婆のか細い手首に手錠がかかる。
「な、なんで」
「朝、私とこの部屋の若者のやり取りがあなたに聞こえていたんですね。隣の部屋なら私たちの声が聞こえるでしょうから。彼がいない今夜なら、部屋に侵入できると思ったんですか」
私が盗み聞きしていたのが、気づかれたのか。
「どうやってこの部屋に入ったんですか」
「玄関の鉢の下に、女の子が合鍵を置いて行ってるのを見たことがあったんだよ」
「昨日の強盗もあなたですよね」
「……」
「さっき、彼がバイト先から『思い出したことがある』って電話をくれたんですよ。『昨日の夜遅く、隣の部屋から誰か出て行った音がした。ばぁさんがあんな時間に出ていくとは思えないから、やっぱり別の誰か住んでると思う』って。でも、出て行ったのがあなたで、強盗犯もあなたなら辻褄が合う」
老婆は肩を落とす。
「こんなばぁさん、誰も強盗に入ると思わない。別に何か欲しかったわけじゃない。気に食わない奴らを見返してやりたかったんだ」
「と、いうと」
「向かいのおばさんはうちの主人が病気がちなのをいつも悪く言ってた。しょっちゅう救急車が来ると落ち着かないって。隣の若造はぺちゃくちゃ騒いだり大きい音で音楽流してうるさくて、うちのがいつも眠れなかったんだ。結局、何にもしてやれないまま逝っちまった」
「ご主人のこと大事にされてたんですね」
「……」
俯いたままの老婆の肩に、刑事はそっと手を添える。
「ちゃんと罪を償って早く家に帰りましょう。ご主人、寂しがりますよ」
老婆は小さくうなずいた。
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