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明里の声にも、真剣に入りたい気持ちが滲んでいる。
「だったらひとりで入ってきてよ~。どっかで待ってるから~」
泣きそうな訴えが、明里とわたしの顔を緩ませた。
「わかった、わかった。もしここがあの“入っちゃいけない小屋”だったら、せっかく買ったの、無駄になっちゃうもんね」
と、明里は持っていたナイロン袋をちょっと上下させた。
「入っちゃいけない小屋?」
おちゃらけた風な言葉へ、静乃が問い返した。悲壮な声音は消えていた。
「例の都市伝説のよ」
「え?」
「あれ、知らない? 入ってはいけない見世物小屋の話」
少し驚いたような顔を見せると、明里は今までの歩調を再開させた。
「全国区の話かと思ってたんだけど」
続けた彼女の話の内容はこういうものだった―――。
自分の地元では有名な伝説で、子どものころから聞き知っていた。
その小屋は、お祭りや酉の市に出る。だが、出没する神社は一定されていない。
小屋の名前も、どんな演し物を見せるのかもわからない。
そして、入ってはいけない理由―――それは、いったん入口をくぐったら最後、消えてしまうから。
「まあ、都市伝説にはありがちな話だけどね」
「じゃあ今の小屋が、その小屋かもっていうの~?」
「うん。だってどんな小屋かっていう手がかりぜんぜんないんだから、そうかもしれないじゃない」
「消えるって、入った人が~?」
「そうなんじゃないの?」
「でも、結構お客さん入ってるみたいだったわよ~。あれだけの人が一気に消えちゃうっていうの~?」
「それはわかんない。小屋内で消えるとはいわれてないから。小屋を出てから後日、ふっと消えちゃうのかもしんないし」
「後日って、どれくら~い?」
「わかんないわよ。そうかもって話なんだから」
「ふ~ん。―――まあ、都市伝説をそこまで掘りさげることもないか~」
といった静乃の声があってからしばし間が続いたので、入ってはいけない見世物小屋の話題は終了かに思われた。―――が、
「実のところ、ありがちっちゃあいっても、この伝説だけはひと際濃く、うちの中に引っかかってるんだ」
明里がトーンを若干変えて、再開させた。
小学生のころの話だという―――。
「友だちが地元の秋祭りで行方不明になったんだ。
同学年の女の子で、親しい間柄じゃなかったんだけどさ。
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