【須田・1】

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 明里の声にも、真剣に入りたい気持ちが滲んでいる。 「だったらひとりで入ってきてよ~。どっかで待ってるから~」  泣きそうな訴えが、明里とわたしの顔を緩ませた。 「わかった、わかった。もしここがあの“入っちゃいけない小屋”だったら、せっかく買ったの、無駄になっちゃうもんね」  と、明里は持っていたナイロン袋をちょっと上下させた。 「入っちゃいけない小屋?」  おちゃらけた風な言葉へ、静乃が問い返した。悲壮な声音は消えていた。 「例の都市伝説のよ」 「え?」 「あれ、知らない? 入ってはいけない見世物小屋の話」  少し驚いたような顔を見せると、明里は今までの歩調を再開させた。 「全国区の話かと思ってたんだけど」  続けた彼女の話の内容はこういうものだった―――。  自分の地元では有名な伝説で、子どものころから聞き知っていた。  その小屋は、お祭りや酉の市に出る。だが、出没する神社は一定されていない。  小屋の名前も、どんな演し物を見せるのかもわからない。  そして、入ってはいけない理由―――それは、いったん入口をくぐったら最後、消えてしまうから。 「まあ、都市伝説にはありがちな話だけどね」 「じゃあ今の小屋が、その小屋かもっていうの~?」 「うん。だってどんな小屋かっていう手がかりぜんぜんないんだから、そうかもしれないじゃない」 「消えるって、入った人が~?」 「そうなんじゃないの?」 「でも、結構お客さん入ってるみたいだったわよ~。あれだけの人が一気に消えちゃうっていうの~?」 「それはわかんない。小屋内で消えるとはいわれてないから。小屋を出てから後日、ふっと消えちゃうのかもしんないし」 「後日って、どれくら~い?」 「わかんないわよ。そうかもって話なんだから」 「ふ~ん。―――まあ、都市伝説をそこまで掘りさげることもないか~」  といった静乃の声があってからしばし間が続いたので、入ってはいけない見世物小屋の話題は終了かに思われた。―――が、 「実のところ、ありがちっちゃあいっても、この伝説だけはひと際濃く、うちの中に引っかかってるんだ」  明里がトーンを若干変えて、再開させた。  小学生のころの話だという―――。 「友だちが地元の秋祭りで行方不明になったんだ。  同学年の女の子で、親しい間柄じゃなかったんだけどさ。
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