【須田・1】

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「でもさ~、遺体が見つかったっていう情報もないわけでしょ~? だったらまだどこかで……」  願うような静乃の言葉だった。 「うん。―――だとすりゃあ、現在も人知れず、監禁でもされているか……。そんな事件、前にもあったじゃない。  またはどっかへ売り飛ばされて、そこで自由の利かない身でいるか……」 「外国の話じゃないんだから~」 「いや、日本にだってあるわよ」  こともなげに返した明里は、すると「あっ」口走るや否や、すぐさま人波を外れた。  何事か……と彼女を追った目は、その向うに目的の場所を映した。  露店と露店の間に結構な広さのイートスペースがとれるのは、規模の大きな神社だからだろう。  並んだ数脚のテーブルと長椅子はほとんどが埋まっていたけど、明里は驚異の眼力で、空いていた四人掛けをその中に見つけた。  テーブルにナイロン袋を置いた明里は、腰を落ち着けることなく、 「偉瑠はドライで、静乃は生ね?」  あげた口角を向けてきた。  冷えた飲み物は席をとってから購入、としていた。 「とりあえず、二本ずつぐらい買ってきてもらったほうがいいんじゃな~い」  酒と食べ物にやっとありつける喜びからか、静乃の口調は打って変わって弾んだものになっていた。  わたしも頷いた。 「OK!」  疾風のごとく明里はスペースを飛びだし、人波を縫っていった。  みな相当なお酒好き。それが三人を強固に結びつけている理由かもしれない。  静乃はテーブルに食べ物を並べながら、この秋新発売のビールの話をふってきた。行方不明になった子の悲劇はやはり、すっかり頭から消え失せたよう。  饒舌な甘ったるい声に集中しようとした。でも、ずっと脳内で反芻している、 『見える者にしか見えない』 『なになにの小屋』  二つのワードはどうしても消えず、音だけの返事を返すだけに終始してしまった。
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