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通学では使わない電車は、思いの外すいていた。
各駅停車だからかな……。
車窓に映るほろ酔いの顔を眺めながら思った頭は、今日、久方ぶりに浮かびあがった問いを、続けて連れてきた。
都市伝説の見世物小屋に、わたしはあのとき、入ったのではないか……。
一昨年―――高三のあの日のことは、昨日の出来事のように思いだせる。
イラストでも非常に有名である、大好きな漫画家のギャラリーがM駅近くにあった。月に一度は足を運ぶそこへ、放課後向かった。
グランドピアノも置かれる白を基調にした空間には、作品や商品がゆったりと陳列され、毎度、時を忘れた。
毎年、壁掛け、卓上、二種のカレンダーを買う。あのときは、まだ発売には早かった。
M駅から出ると、今日が酉の市であることを知らせる立て看板が目に入った。近くのO神社でだった。
特に惹かれはしなかった。
だけど、そんな時期だったからか、ギャラリーで酉の市の風景を描いている版画が展示されており、その温かみのある華やかさが、
いってみようかな……。
思わせた。
ギャラリーから駅に戻り、さらにゆくO神社までは、結構な歩き出があった。
陽はすでに暮れかかっていた。
大きな神社ではなかったけど、人出は凄かった。
酉の市ははじめての経験だった。
普通のお祭りでは見られない熊手の露店が新鮮に目に映り、境内のにぎわいを助長しているように感じられた。
きらびやかな縁起物を眺めながら人波に身をゆだねていると、ふいに、お腹が大きく鳴った。―――混じり合ったあらゆる食べ物の匂いのせい。
喧騒でまわりに気づかれる怖れはないと思ったけど、顔は熱くなった。
腹の虫の訴えを機に、鳥居へ向かった。
境内を出る間際だった。
並ぶ露店の一番端に、テントがあった。
酉の市関係者の詰所的なもの……?
だけど、締め切られたテント幕に貼りつけられているベニヤや段ボールのようなものが興味を惹き、足が寄った。
《脱走妻の小屋》
『見物料○○○圓。但し、御代は御気に召せば』
これって、見世物小屋的なものなんじゃ……。
興奮した。
入ってはいけない見世物小屋。―――小学生時分に知った都市伝説。
それこそが、“見世物”という言葉との出逢いだった。
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