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 見てきた彼女たちの姿勢をすべてまねた。五パターンは、しっかりと記憶に刻み込んでいた。  熱い淫汁に侵された手には、いつしか白濁に血が混ざっていた。  口かせを外し、舌を這わせた。  いつもとは違うわたしの匂い、味……。  美味しい……。  夢中になって舐め清めると、下方の唇に、五指を再び向かわせた。  幾度全身をわななかせたか……。  これほど激しく自分をいじめたことは、今までなかった。  ベッドのシーツは、大きなしみを広げていた。  父が急死したのは翌日だった。  心不全。  衝撃のあとに続いた、  風邪一つ引いたことのない父がどうして……。  という謎がすぐさま呼び起こした。―――入ってはいけない見世物小屋。  昨日の《脱走妻の小屋》こそが、あの言い伝えの小屋だったのではないか……。  なぜなら、“入ったら消えてしまう”のがなにであるのか、都市伝説は規定してはいなかったから。  ただそれでも―――。  車窓の自分に意識が戻った。  ただそれでも―――当時の思考は「偶然」のほうに傾いていた。  しかし、今日得た明里からの情報―――、 “小学生時代の事件時、見世物小屋を見たという友人たちの何人かは、「なになにの小屋」という看板を見た”  それが今になって、一気に「必然」方向に重量を持たせた。 「なになに」は「脱走妻」だったのでは……。  また、わたしが甘えた言葉―――、 『御気に召さなかった場合は、そのまま入口より御帰り下さい』  行方不明になった子は、このダンボールの意味を理解したのではないか……。だから、もぐり込んだのではなく、はじめから払う意思はなく、入口の幕を開いた……。  入ってはいけない見世物小屋。―――あくまで都市伝説。  でもそれを、 “見える者にしか見えない―――”  再び現れた明里の台詞が、さらに「実存」へ大きく傾斜させたのも事実だった。  なにせ、テント内で彼女たちの痴態を見ている間は決して短い(とき)ではなかったのに、その間、誰ひとりほかの見物客は入ってこなかった。代金を払わず入口へ戻るときにも、人の姿とすれ違うことはなかった。  酉の市のあれだけのにぎわいの中、誰も興味を示さないのはあまりにも……不思議。  あとになって首を傾げたことを覚えている。  その疑問を、明里は解いてくれたのではないか……。
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