【愛友・1】

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【愛友・1】

     【愛友・1】  ひとしきりわたしの顔全体を這ったご主人さまの舌、唇は、次いで首筋へと移動しました。 「……アユ……アユ……」  吐く息の間にまぎれる囁き。  これが始まりの形です。 「……アユ……私のもの……私の女……アユ……」  気がつくとここにいました。ベッドに寝かされた状態でした。出窓から、ほころび始めの桜が見えました。  そして、はじめてご主人さまがわたしに躰を重ねてきたのは、出窓からの桜が散り始めたころでした。  その日―――それは、わたしがご主人さまの納得がいく“異形”に生まれ変わらされた日でした。  わたしを前にして、何度も満足げに頷いたご主人さまの顔を覚えています。  それまで、わたしはさんざん、いわゆる実験材料として扱われました。  その間、一度も行為をしなかったということは、ご主人さまは人の姿をしたわたしではなく、顔以外、なめらかな人肌を失くしたわたしを抱くのが目的だったのでしょう。  ご主人さまがわたしのはじめての人でした。  ご主人さまは、わたしにいろいろな形をとらせました。  そして、ときには激しく、またときには優しく、わたしを抱きました。  両胸の頂点、おへそ、薄い黒ずみの間を、手や舌でいたぶるとき、ご主人さまは必ず、自身の顔を見るようわたしに指示します。ご主人さまもわたしを見つめます。そのときのご主人さまの表情には、興奮がみなぎっています。  重なりは、夜でも煌々とした明りをつけて進行しました。  ご主人さまは、決まって顔の上にまたがり、わたしの躰を眺める形で到達しました。  異形こそが、昇天するための一番の材料なのでしょう。  求めてくる“とき”に、決まりなどありませんでした。  わたしに拒否権などあるはずもありませんでした。  行為後、ご主人さまとテーブルをともにすることもありました。お互い必ず、服は身につけない状態ででした。  ご主人さまはお酒が好きでした。飲みながら、長い時間わたしを眺めることもありました。  口移しで飲まされると、わたしの異形の躰にお酒が流れました。ご主人さまはそれを、音を立てて舐めまわしました。  飲んだあと、またかぶさってくることもありました。 「アユ、アユ、アユ、アァ……」  顔の上の腰が震えました。  噴出音が微かにしました。
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