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そうしてからご主人さまは、ティッシュのものよりも一回り大きなボックスから、真っ白なペーパーを一枚抜きだしました。ボックスは、ベッド頭に添わせていた作業道具置きの台にありました。
キッチンペーパー大のそれは、不織布です。わたしにもさんざん使用されたのでわかります。
ご主人さまは不織布に、同じく台に載っていた薬液を、念入りにスプレーしました。
それから、やはりわたしにしたのと同じく、しっとりとしなった不織布で彼女の前面を丁寧に拭き始めました。
彼女の躰はときに、ピクッ、ピクッ、と反応しました。
両の赤い突起は、下着をとったときよりも大きくなっていました。
清拭が終わると、ご主人さまはボックスの陰に置かれていた作業道具をとりあげました。
ナイフはピカリと、照明を反射させました。
そして、冷やかさをたたえるその銀色を、ご主人さまはゆっくりと彼女の躰におろしてゆき―――。
「アウッ……」
苦悶のような呻きを洩らし、ピクンと躰を反らせた彼女の胸に、真っ赤な筋が浮きあがりました。
「ごめんなさい……」
微かな彼女の囁きを聞きました。
ご主人さまは、構わずナイフを走らせました。
一筋、また一筋と真紅の線が増えるごとに、ご主人さまの息遣いは荒くなってゆきました。
彼女はパイプを握り、必死に震えに耐えているようです。
新たな異形誕生の幕開けです。
彼女がご主人さまに抱かれることは間違いないはずです。
でははたして、ご主人さまは彼女に、あの凄い躰で挑むのでしょうか。
そうであれば、彼女はどんな驚愕を受けるでしょうか。
いくら思慕の情があっても、拒絶という選択肢は、どうしても浮かんでしまうのではないでしょうか。
全体が黒ずみ、あらゆるところに筋状の隆起を見せる、あのご主人さまの躰です。彼女は耐えきれないのではないでしょうか。
そうしたらご主人さまは、またわたしに戻ってくるのでしょうか。
ご主人さまの要望にすべて応えるわたしに、帰ってくるのでしょうか。
いつしか出窓を叩いていた雨音を聴きながら、思いました。
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