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一階の窓はどちらもロールブラインドがあがっており、装ったなにげなさで中を覗くと、客の姿は確認できなかった。
入りにくさはあった。でも反面、はたしてやる気があるのかと首をかしげてしまう店構えの喫茶店に、少なからずの興味を持った。
喉の渇きも手伝い、手はドアへと伸びた。
“カランカラ~ン”
いかにも喫茶店、といったドアベルの音だった。
「いらっしゃいませ~」
明るい声だけが届いてきた。
ドアの正面には奥へ真っ直ぐ向かう通路が続き、突きあたりにはスウィングドアがあった。通路を挟んで、両側それぞれ三つずつボックス席が並び、その通路を横に見る形で座るよう、すべてのシートは設えられている模様。それがまずの、視界が捉えた店内風景。
と、
「あ、いらっしゃいませ」
同じ台詞を携え、若い女性がスウィングドアから出てきた。
小奇麗な容姿をした彼女の、感じのいい笑顔を目にした途端、ふとわいた気持ち―――。
どこかで見たことのあるような……。
「どこでもお好きな席へ」
と愛想よく掌を左右へふった彼女は、再び奥へと消えた。
各々の席は、結構な高さの背板で仕切られ、通路側天井にもロールブラインドがとりつけられていた。ほかの客の視線を気にさせずに飲食を楽しませる工夫だろう。
今、その目隠しは、どこの席にもおろされてはいない。
また、階段は見あたらないので、店舗スペースは一階だけのようだ。
入口近くで客の出入りに煩わされたくないと思い、会話の邪魔にならないほどの音量で流れていたピアノ曲を聴きながら、奥へと向かった。
何気なくすぐのボックス席を横目にしたときだった。
うっ!
鼓動がとまった。
目に飛び込んだのは、宙に浮かぶ子どもで―――。
しかし、
……人形……。
凝視はそれが生物でないことを、すぐに脳へと訴えた。
テーブル奥の壁から突きだす棚に載った、青い目をした少女人形―――。
艶やかなブロンドヘアーの下の、あまりにもリアルにつくられた美しい幼顔が、“人間”との錯覚をもたらした。加えて、店内の抑え気味の暖色照明も、見間違いに手を貸した。
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