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水色のエプロンドレスをまとう美少女の四肢のあちこちからは、張られた幾本もの紐が上方に向かっており、それらすべては、ばってん状になった木板に集中していた。その板は、上方の壁にはめ込まれたヒートンにかけられ、固定されている。
そうやって、テーブルの上五〇センチほどの高さにちょうど足もとがくる具合でたたずんでいた少女は、いわゆるマリオネットだった。
ゆっくりと運ぶ足で、ほかのテーブルにも視線をふった。
どのボックス席にも、同じようにつくられた棚に、一体ずつマリオネットが載っていた。
白い兎―――。
縞模様をした猫―――。
ネズミ―――。
背高帽をかぶった老人―――。
それらの手前には案の定、客の姿は一つもなかった。
つくづくと眺めたわけではなかったが、つくりの精巧さはみな、美少女に引けをとらないものであることはわかった。
一番奥の目的の席。そこにも座る者はなく、操り人形だけがただあった。
豪華なドレス、そしてティアラ、イヤリング、ネックレスと、きらびやかな装飾品をも身につけた彼女は、一目で王女を思わせた。
無学なわたしでもすでに察していた。―――この店にいるマリオネットたちは、イギリスの有名な物語の登場キャラクター。
変わらない笑みでお冷を持ってきた店の彼女へ、アイスティーを頼んだ。
「ブラインドはおろしましょうか?」
「……とりあえずこのままで」
「はい」
それだけのやりとりで、彼女は再びキッチンへと去った。
どこかで逢ったことのあるような……。の気持ちは、腰に黒いエプロンを巻いた彼女の後ろ姿からもわいた。
しかし思考は、すぐに横の人形へと移った。
少女人形と同じく立ち姿でいる彼女の、薄いチークの入った色白の細面は、あの物語に登場した、肥満体で意地の悪い王女のキャラと、まったく接するところがないように思われる。しかも美顔には、慈悲深い微笑まで浮かび、まるで最初に目にした美少女を成長させたような……。
思えば、帽子の老人も品のある紳士風情だったし、動物たちも、コミカルさのないシャープな姿だった。
まあ、キャラクターのイメージそのものにつくらなければいけないという法はない―――ということか。
それはそうと、操り人形にこれほどのサイズのものがあるなどとは知らなかった。
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