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当時の精神的状況が再燃してしまったのでは……。
お嬢さまは、ご友人と遊ぶということが昔から少なかった。学校からお帰りになると、自室でずっと絵を描いてすごされた。だからあの日も、てっきり描画に没頭なされていて静かなのだと―――。
発見がもっと遅かったら……。今でも時折甦らせてしまう思いは、決まって全身を震わせた。
しかし一方で、思考は首を横にふる。―――その後、幾度かあった未遂。それでも、治療はすっかり完治を見させたはず。
でも―――。
もし再燃したとして、では、なぜ前もって、数日間の暇をお出しになるのか……。
だいたい、暇が明けてから合わせるお嬢さまの表情に、変わったところなど今まで感じられなかった。
でも―――。同じ声が脳内に続く。
こっちは素人。そうだからといって、再燃はない、とはいいきれないのでは……。
疑いが生じたと同時に、「たしかめたい」の願望も生まれた。
お屋敷の合鍵は常日頃持ち歩いている。
しかしもし万が一、お嬢さまのわけが真実だったとして―――いや、真実ではなくとも、わたしの不安事とはいささかも関係のない事柄で暇を出されていた場合―――。
いいつけを守らなかったわたしに、お嬢さまがお気づきになったら……。
「不安からでした」といくら弁解したところで、わたしに対する不信感というしこりの残るのは確実だろう。末には解雇の憂き目にも……。
お嬢さまのお生まれになる前からご奉公し、母子のような間柄だと思っているわたしにとって、別離は生きがいの喪失と同等。
であれば“確認したい”の欲望は、ぐっと飲み込むしかない。
しかし、
もしわたしの憶測が正しかったなら……。
という気がかりは、むろん消せるものではなかった。
正直なところ、完治をお医者さまご本人から伺っても、再発の危惧は心の奥底にくすぶっていた。だから、できる限りお嬢さまのそばにいたく、住み込みへ勤務形態を変えていただこうかと考えたこともあった。女中室は狭いけれども、お嬢さまのことを考えれば苦となるはずもなかった。でも、旦那さまご夫妻に理由を申し出れば、治まった不安をぶり返させてしまう恐れもある。そう思い直し、差し出がましい口は結局控えた。
「おまちどうさまでした」
涼しげな声で、意識は店内へと戻された。
チムニーグラスがコースターの上に置かれた。
「ごゆっくり」
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