【九沓・1】

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〈変ニャ葉っぱとか薬とか。だってお手伝いがいる家のお嬢さまニャんしょ? どうせ金持ちだろうから、そんなもんいくらでも手に入るんでニャいかい?〉 〈金持ちには、変な輩がくっついてくるっていうのがセオリー〉 〈でもって、そこから乱交なんかが始まっちゃって―――もしかしたらお嬢さま、堕胎のくり返しだったりして〉  背高帽の自信満々なふうの発言に、いたって楽しげにアリスが乗る。 〈そしていずれ、心身ともに崩壊を迎え、廃人に、か〉 〈お金がありすぎるっていうもの、考えものですわね~〉 〈でも、来客があった気配はないっていってたよ〉 『やめなさいよ、妙な憶測』 〈あら、意外と的を射ていると思うのですけれども〉 〈自殺願望をもよおさせる事故というのも、なかなかおつな謎よな〉  白兎の声音には、明らかにワクワク感が滲んでいた。 〈なんじゃらほいネ〉 〈相当なアクシデントであるっちゅうことは、間違いニャいんでニャいかい?〉  鼠と縞猫が呼応する。  人形たちの声が聞こえるようになったのは、彼らの製作を終え、すべてを店内へ飾ってからすぐのことだった。 〈やっとそろった〉  それがはじめて入り込んできた台詞。  空耳。―――もちろん疑った。  しかし人形たちの会話は、まるで今まで溜めこんでいた想いを発散するように、途切れなかった。  その中には、私に向けられる言葉もあり―――、 〈ずいぶん待ったでニャんすよ〉 〈あたしの衣装、ちょっと子どもっぽくない?〉 〈わたくしのメイクは気に入っておりますわ~〉 〈この帽子、ぴったりフィットで、よろしい〉 〈オレ、もうちょい細かったらよかったんだけどネ〉 〈とりあえず生んでくれて、ど~も〉  などなど。  パニクった。  私、おかしくなった!?―――当然の思考。 「疲れてる」―――いい聞かせた。なにせ相当な期間、閉店後の時間のほとんどを、人形たちの製作に費やしていたのだから。  すぐに二階へあがり、休憩用のベッドに横になった。  ―――思った通りだった。人形たちの声はまったく聞こえなくなった。  根をつめたら躰に支障をきたす。わかっていたものの、若さが乗りきれさせると思っていた。  過信―――をすぐさま反省した。  もしこんな生活を続ければ、とり返しのつかないことになるかもしれない。まどろみながら戒めていた。  しかし―――、
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