35人が本棚に入れています
本棚に追加
再び店へおりてみると、
〈大丈夫かな〉
〈問題ないでしょ、ずいぶんさっぱりした顔になってるから〉
〈疲労はお肌の大敵でございますわよ~〉
幻聴がまた襲った。
と、
〈幻聴じゃニャいんすよね〉
〈まあ、そう考えるのも無理はないかもな〉
幻聴じゃない……。
えっ―――彼ら、私の意識読めるの……。
ううん、違う。これって私が勝手に思い描いたことを、勝手につくった声に乗せているだけよ。
〈とりあえず信じるってことで手打たないと、あんた、本当におかしくなっちゃうわよ〉
えっ―――この声も、自分で考えているの!?
〈違う。あたし、アリス本人の声であって思考〉
アリス……。
うそだっ! アリスだけじゃなく、すべての人形たちの口は動くようにつくってはいない!
ううん。仮に可動式にしたとしても、喉も声帯もないんだから、声なんて出るわけない!
〈しかり。ゆえにお主の鼓膜を通してではなく、直接頭の中へ語りかけている〉
私の両手は自ずと両耳を強く塞いでいた。にもかかわらず、声はクリアーに響いていた。
だから、この男性の説明は理に適っている―――。
いや、なに考えているの私は!? だからといって、幻聴じゃないとはいいきれないじゃない!
〈こんな理路整然と、いろいろな声が長々聞こえてくるって、幻聴とは考えづらくない? 明確な幻聴の定義は知らないけど〉
今度は誰?
兎です。
うさぎ……。兎ってこんな声なんだ……。ううん、今そんなことはどうでもいい。
たしかに―――たしかに兎―――と名乗る者のいうことも頷けなくはない。
ではなんだ……。
幻聴ではない。だとすると……。
そうか!
―――いや、でも、いきなりそんな障害が発生するもの? いくら疲労の蓄積が限界を超えたとしても……。
〈多重人格でもないって〉
あきれたようなアリスの声が聞こえた。
ええぇ~!? やっぱり読めるの!?
〈うん〉
〈たぶんあっしら、ほかの人間の頭の中も読めるんでニャいかな?―――あ、手前、猫でニャんす。以後よろしゅう〉
兎はしっかりしゃべるのに、猫はこれ?
〈へんでニャんすか?〉
へん! っていうか、すべてがへん!
再び二階へ駆けあがり、毛布を頭からかぶった。充分横になった躰に、眠気など襲ってくるはずもなかった。
どれぐらいの時間そうしていたか―――。
最初のコメントを投稿しよう!