【九沓・2】

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「みっともないわよ。自分、今までまったく男に相手にされませんでした~って宣言してるようなもんじゃない。プライドのない女がやることよ」  嫉妬の口が収まらないのは、ぶつけられる相手を久しぶりに面前にしたからだろう。 「そうは思わないけど……。でも結果的にうまくいったんだから、みっともなくてもよかったんじゃないの」 「うまくいったって決まったわけじゃないわよ」 「……」 「だって、つき合って半年よ。それで決めちゃったのよ。そんな短期間で相手のことなんてわかると思う~? おちおちしてて逃げられでもしたらまずいと思ったんだろうけどさ。これ逃したら、今後一生チャンスなんてまわってこないから」 「決めつけちゃ悪いわよ」 「蓋開けてみたらさ、とんでもないド変態だったり、目もあてられないマザコンだったり。―――あっ、不能者ってこともあり得る、うん、大いにあり得る」 「さすがに不能かどうかはわかってるんじゃないの?」 「実は男の顔した女だった、ってこともなきにしも非ずね」 「ない」 「どっち道うまくいくはずはない。だから離婚したら、今日の出費分、すぐ請求してやる」 「だったら、はじめから出席しなければいいんじゃない? いくら腐れ縁だっていっても」―――という台詞を飲み込んだ。 「だいたいさ、相手もどういうセンスしてるのかしらね?」  合コンは、美術館の学芸員をやっている味奈子とその仲間、そして、某理系大学の教職者陣で行ったという。  この変わったとり合わせは、主催したふたりが高校時代の同級生で、クラス会で再会したとき、  ―――未だ独り身。  ―――結婚願望を持つ者が、自身の職場にも数名いる。  双方合致した打ち明け話から生まれたらしい。  大学の先生は知らないが、学芸員が異性と出会うチャンスのないことは、大学時代の友人たちとの話で知っていた。  ただ、うまく続いたのは美緒だけだったらしい。しかも《彼、若くして教授》と、携帯の向うの声音は自慢げだった。 「普通、名前同様のあんな地味な子選ばないわよ」  味奈子の姓は「(てら)」。だから音読みにすると「じみなこ」となる。もちろん、そういった話題を味奈子の前で出したことはない。美緒は知らないけど。
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