【九沓・2】

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 同じクラスになってからの自己紹介の際知ったのだが、彼女のご両親は、味のある人間になるようにとの願いを込めて、「味奈子」としたらしい。寺を「じ」と読んだら……という心配は、幸福感でいっぱいであったろう命名時、浮かばなかったのではないか。 「フィーリングが合ったんでしょ」 「フィーリングじゃなくて、普通じゃないのよ。だいたい、遺伝子工学とか生命工学とかやってるっていう男よ。おかしいに決まってるじゃない」 「なんで決まってるのよ」 「だって、遺伝子やら細胞やらを操作して、変な生き物生みだしたり、人造人間つくろうとうしたりする分野でしょ? いわゆる神に背く行為好んで行ってるって人間よ」 「んなアホな」 「しかもほんとかどうだかわからないけど、偉そうに教授だっていうじゃない。そんなもんジジイになってからなるもんなのに、三五でなんて頭どうかしてる男よ。絶対異常者」 「どうして素直に、凄い人もいるものね~っていえないのかしら?」  しかし、嫉妬に燃えた女は聞く耳など持たず、 「ともかく、勉強しかやってこなかったんだろうから、まず童貞だな。だから寄ってきた女ならだれでもよかった。ブスでもデブでも化け物でも」  声を落としもせずいった隣に、 「やめなさいよ」  こっちは絞ったボリュームでたしなめた。  嫉妬に思考を奪われた女は、自分が今どこにいるのかという判断能力も奪われる。 「あ、変な生き物が好きなんだから、味奈子みたいなヘチャムクレなんて、かえってストライクだったかもしれないな。うん」  突然ひとり納得した。 「という考えでいくと、離婚はないんじゃない?」  いってみると、 「……そうね」  嫉妬女は落ち着いた口調で、軽く前言をひるがえした。 「ま、面白味もない男だろうから、面白味もない味奈子には似合いだわね。  だとすると、やっぱりパーティーなんて必要ないわ。どうせ面白味もない会になるんだから」  当初の話に戻った。  反論するのもさすがに疲れたので、ほっとくことにした。  すると途端、横に並び歩く友人に向ける集中を解いた耳は、拡声器を通した声を拾い、次いで、 「見世物小屋か」  美緒のつぶやきも受けとった。
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