37人が本棚に入れています
本棚に追加
一方、他校からの情報を聞いた自分たちの中でも、「見た」「いいや見なかった」という者がいた。現場となった神社は自校からもさほど距離はなく、祭りを楽しんだ自分の友人たちも多かった。
自分も仲間と訪れたが、目にすることはなかった。事件のあった日と違っていたから……ということも、もしやあるのかもしれないが。
いずれにせよ、両校の生徒とも、
その小屋は見える人にしか見えず、行方不明になった子は見える子で、しかも入ってしまった―――。
という結論で落ち着いた。
見たという子たちのあまたは、怖れから入ろうと思いもしなかった、とのことだった。中には、入ってやろうと思ったが、お金がなくて断念した、と強がる男子生徒もいた。
当然大人たちは、誘拐事件として見たはずだ。
それから中学にあがっても、件の女子生徒が見つかったという話は聞かず、今にいたっている。
「不思議だったのはさ、見たっていう子みんな、その小屋はテントだったっていうのよ。そして『なになにの小屋』っていう看板がついてたって。“なになに”の部分は文字が滲んでいて読めなかったっていう子もいたし、難しい漢字でわからなかったっていう子もいたと思ったな」
「なになにの小屋……」
「本当かなって思ったけど、向うの学校の見たっていう生徒たちも、これも不思議と、その名前だったって口そろえたみたいなの。テントだったっていうのも一緒。
そんなこと、うちらの子たちと示し合わせる必要なんてないと思うし、だいたい示し合わすことなんてできたのかなって」
「そうねえ……」
「だから伝説の小屋は、あたしたちのうちでは『なになにの小屋』っていう名前がついているテント、っていうことになってるわけ」
「じゃあ、行方不明になった子が見える子だったとして、だったらちゃんとお代払って入ったのかしら?
小学生のお小遣いでカバーできるほど、見世物小屋の入場料って安くないんじゃない? さっきの小屋も意外といい値段掲げてたし。お祭りなんだから、ほかの屋台だっていろいろ楽しみたいでしょうに」
「知らない。選ばれた子なんだから、タダだったんじゃないの」
しれっといった美緒は、すると、
「そうそう」
なにかを思いだしたように、
「それがむかつくのよ」
憤りを滲ませた調子にがらっと変えた。
「あの子、伝説の小屋に入ったっていうのよ、合コンの数日前に」
最初のコメントを投稿しよう!