【九沓・2】

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 一方、他校からの情報を聞いた自分たちの中でも、「見た」「いいや見なかった」という者がいた。現場となった神社は自校からもさほど距離はなく、祭りを楽しんだ自分の友人たちも多かった。  自分も仲間と訪れたが、目にすることはなかった。事件のあった日と違っていたから……ということも、もしやあるのかもしれないが。  いずれにせよ、両校の生徒とも、  その小屋は見える人にしか見えず、行方不明になった子は見える子で、しかも入ってしまった―――。  という結論で落ち着いた。  見たという子たちのあまたは、怖れから入ろうと思いもしなかった、とのことだった。中には、入ってやろうと思ったが、お金がなくて断念した、と強がる男子生徒もいた。  当然大人たちは、誘拐事件として見たはずだ。  それから中学にあがっても、件の女子生徒が見つかったという話は聞かず、今にいたっている。 「不思議だったのはさ、見たっていう子みんな、その小屋はテントだったっていうのよ。そして『なになにの小屋』っていう看板がついてたって。“なになに”の部分は文字が滲んでいて読めなかったっていう子もいたし、難しい漢字でわからなかったっていう子もいたと思ったな」  「なになにの小屋……」 「本当かなって思ったけど、向うの学校の見たっていう生徒たちも、これも不思議と、その名前だったって口そろえたみたいなの。テントだったっていうのも一緒。  そんなこと、うちらの子たちと示し合わせる必要なんてないと思うし、だいたい示し合わすことなんてできたのかなって」 「そうねえ……」 「だから伝説の小屋は、あたしたちのうちでは『なになにの小屋』っていう名前がついているテント、っていうことになってるわけ」 「じゃあ、行方不明になった子が見える子だったとして、だったらちゃんとお代払って入ったのかしら?   小学生のお小遣いでカバーできるほど、見世物小屋の入場料って安くないんじゃない? さっきの小屋も意外といい値段掲げてたし。お祭りなんだから、ほかの屋台だっていろいろ楽しみたいでしょうに」 「知らない。選ばれた子なんだから、タダだったんじゃないの」  しれっといった美緒は、すると、 「そうそう」  なにかを思いだしたように、 「それがむかつくのよ」  憤りを滲ませた調子にがらっと変えた。 「あの子、伝説の小屋に入ったっていうのよ、合コンの数日前に」
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