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「合コン……って、味奈子のこと?」
「そうよ」
「ほんと? っていうか、どうしてそれがむかつくのよ?」
「小屋に入ったから悪運が消えて結婚が決まった。だいたい自分が結婚できないなんておかしかったんだ。あの小屋は、入ると人間が消えるだけじゃなく、穢れも消えるみたい。―――って、さも得意げにいって、アハハハハって笑いやがったのよ! ブスがよくいうわ! ふざけんな!」
まわりをちっとも気にかけない憤慨口調は、前を歩いていた若いカップルをふり返らせてしまった。
味奈子と美緒の実家は同学区内にあり、ふたりは小学校こそ違ったが、中学、高校は一緒となった。しかも美術部所属も同じ。
さすがに大学では離れるだろうとお互い思っていたというが、これまた一緒となってしまった。美緒が腐れ縁というのはそれゆえ。
高校も大学も、彫刻学科も、相手が真似した。―――というのもふたり同じ主張。
あたしのほうが腕は断然上。―――このいいぶんもご多分に洩れず。
しかも、参加したコンテストは、中学時代からずっと同じ賞をとっている。
いわゆるいいライバルであるからこそ、結婚を先んじられた美緒はこれほど憤慨している。
私からいわせると―――「べつにいいじゃん」
「でもそれって、ほんとに都市伝説の小屋だったの?」
案の定、私たちの前から横へそれていったカップルへ、「ごめんなさいね」心中で手を合わせてから投げかけた。
合コン前というと、去年の、どこかの神社の夏祭りでのことだろうか……。
「テントに《脱走妻の小屋》っていう看板がかかってたんだって。妙な名前だから頭にこびりついてたって」
「だっそうづまのこや?」
「あたしもこびりついたわよ。
で、まわりには小屋を気にかけてるような人もいなくて、中へ入っても客は誰もいなかったって。ほんとかよ」
まあ、伝説の概要にはそっている。
「よく入ったわね」
と、思いはしたが、地味な風貌に似合わず―――といっては失礼だが、好奇心旺盛なところのある味奈子であれば、頷けないこともなかった。しかも、奇妙、奇怪なものに対する嗜好も、彼女にはあった。
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