【九沓・2】

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「合コン……って、味奈子のこと?」 「そうよ」 「ほんと? っていうか、どうしてそれがむかつくのよ?」 「小屋に入ったから悪運が消えて結婚が決まった。だいたい自分が結婚できないなんておかしかったんだ。あの小屋は、入ると人間が消えるだけじゃなく、穢れも消えるみたい。―――って、さも得意げにいって、アハハハハって笑いやがったのよ! ブスがよくいうわ! ふざけんな!」  まわりをちっとも気にかけない憤慨口調は、前を歩いていた若いカップルをふり返らせてしまった。  味奈子と美緒の実家は同学区内にあり、ふたりは小学校こそ違ったが、中学、高校は一緒となった。しかも美術部所属も同じ。  さすがに大学では離れるだろうとお互い思っていたというが、これまた一緒となってしまった。美緒が腐れ縁というのはそれゆえ。  高校も大学も、彫刻学科も、相手が真似した。―――というのもふたり同じ主張。  あたしのほうが腕は断然上。―――このいいぶんもご多分に洩れず。  しかも、参加したコンテストは、中学時代からずっと同じ賞をとっている。  いわゆるいいライバルであるからこそ、結婚を先んじられた美緒はこれほど憤慨している。  私からいわせると―――「べつにいいじゃん」 「でもそれって、ほんとに都市伝説の小屋だったの?」  案の定、私たちの前から横へそれていったカップルへ、「ごめんなさいね」心中で手を合わせてから投げかけた。  合コン前というと、去年の、どこかの神社の夏祭りでのことだろうか……。 「テントに《脱走妻の小屋》っていう看板がかかってたんだって。妙な名前だから頭にこびりついてたって」  「だっそうづまのこや?」 「あたしもこびりついたわよ。  で、まわりには小屋を気にかけてるような人もいなくて、中へ入っても客は誰もいなかったって。ほんとかよ」  まあ、伝説の概要にはそっている。 「よく入ったわね」  と、思いはしたが、地味な風貌に似合わず―――といっては失礼だが、好奇心旺盛なところのある味奈子であれば、頷けないこともなかった。しかも、奇妙、奇怪なものに対する嗜好も、彼女にはあった。
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