【九沓・2】

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 たとえば、彫刻学科ではあるものの、絵画にも造詣の深かった彼女は、現代美術に多大な影響を与えたといわれる英国人画家『フランシス・ベーコン』の、不気味な作品群をとても好んでいた。それらの絵画をヒントに製作したものも多く、みなやはり奇怪だった。 「もうこれ以上生きていても男なんてできないって、自暴自棄になってたんでしょ。だったら望み通り、あの子自身が消え失せればよかったのよ」 「なんてことを。―――だったらさ、都市伝説の小屋って、怖い場所っていうだけじゃなくて、ラッキースポットということにもなるんじゃない?」 「知らん!」  と、美緒は苦虫を噛みつぶしたような顔で吐き捨てた。  またもしくは、味奈子は本当には信じていなかったのかも……。とも考えながら、大鳥居をくぐった。  境内へふり向き、ふたりで一礼したとき―――ふと浮かんだ。  もし小屋の見えた人が、都市伝説を知らなかったら……。  私であればそもそも気味が悪くて遠慮するが、興味から覗いてしまい、勝手に消えてしまったとしたら、あまりにも気の毒ではないか……。ラッキースポットとしての効力を発揮してくれるのならよいが……。  味奈子はどういった見世物を目にしたのか、訊いたのか―――。  再び閉塞感を感じる雑踏へ戻ると、向けてみた。  途端、唇の片端をあげて頷いた美緒からもたらされた描写は、思いもよらないものだった。  そして、さっきの小屋で宣伝していたような、一般的な見世物とは違ったその情景は、人形作家として、少なからずの興味を覚えるものだった。  と同時に、確信していた。―――これだけの会話を交わすのだから、やはり美緒は味奈子が好きなのだ。
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