【良木・1】

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 願望は今ここに、忽然として叶えられた。  だが、わいたのは喜びではなく驚きで、しかもそれは、立ちあがった彼女が机のすぐ脇に迫っていたテント幕の重なりに、 「お出口はこちらでございます」  変わらないしゃがれた喉で手をかけた刹那、  えっ……!?  別種の驚愕で吹き飛ばされた。  これは……!?  全身が凝固していた。  しかし、 「ありがとうございました」  退出を促すような声が、私の常識を辛うじて働かせ、彼女の“それ”に向けた瞠目は、出口へとずれた。  どこかで響いたクラクションが鼓膜を衝いた。  途端、喧騒が戻った。  片側二車線の大通りの歩道に、私はいた。帰途へ就くのであろう祭り客の流れに、我知らず乗っていた。  それまで脳内は、小屋番の彼女の姿に占有されており、私の躰は私のものではなかった。  おそらくテントを出て、さっきたたずんでいた境内の外塀との間を抜け、鳥居をくぐってここまできたのだろう。  自宅方面へ向かっていたのは帰巣本能からか……。  そのままの足どりを維持しながらの私の両の網膜が、幾度となくくり返した熱い訴えを再度あげた。  ―――嘘だとは思えない!  くすんだオレンジ色のテント―――。あそこにこそ、私が本当に求めていた見世物があった。  料金を払った者だけが、本物の衝撃を受けることができるシステム―――。  しかし人によっては、払えば一生残るトラウマを生んでしまう、危険な小屋といえるかもしれない。  空車に手をあげなかったのは、再度ゆっくりと、今夜見た驚愕をふり返りたかったからだった。  さすれば躰は再び熱に包まれ、感じていた肌寒さはすぐに霧散するはず。
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