山の主

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 オレは振り返らず、麓に目を向けたまま答えた。  もしかしたら、あの田畑も、土砂に呑み込まれたことがあるんだろうか……。  麓から視線を近くに戻せば、田沢と二人であがってきた細い山道が、樹々の間に見える。  「なるほど。おもしろい話だな。  だけど、本当に山の主がいたとは考えられないか」  ……あれ、何かおかしい。  オレは、違和感を覚えた。  ……田沢は、こんな話し方をしない。  後を振り返ろうとしたとき、樹々の間に見え隠れする人影を見て、オレは硬直した。  田沢である。  田沢が必死で山道を駆け降りている。  「腹を減らした山の主が、登ってきた人間に話し掛けたとは考えらぬかと聞いておるんだ」  後から野太い声がする。  どこか高圧的で、嘲笑うような響きがある声だ。  オレは恐怖で動けなくなった。  いつからだ……。  一体、いつから、声の主が変わっていたんだ……。  「なあ、丸呑みにしてもよいか?」  真後ろまで近寄って来た声が、生臭い息と共にそう言った……。
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