2人が本棚に入れています
本棚に追加
オレは振り返らず、麓に目を向けたまま答えた。
もしかしたら、あの田畑も、土砂に呑み込まれたことがあるんだろうか……。
麓から視線を近くに戻せば、田沢と二人であがってきた細い山道が、樹々の間に見える。
「なるほど。おもしろい話だな。
だけど、本当に山の主がいたとは考えられないか」
……あれ、何かおかしい。
オレは、違和感を覚えた。
……田沢は、こんな話し方をしない。
後を振り返ろうとしたとき、樹々の間に見え隠れする人影を見て、オレは硬直した。
田沢である。
田沢が必死で山道を駆け降りている。
「腹を減らした山の主が、登ってきた人間に話し掛けたとは考えらぬかと聞いておるんだ」
後から野太い声がする。
どこか高圧的で、嘲笑うような響きがある声だ。
オレは恐怖で動けなくなった。
いつからだ……。
一体、いつから、声の主が変わっていたんだ……。
「なあ、丸呑みにしてもよいか?」
真後ろまで近寄って来た声が、生臭い息と共にそう言った……。
最初のコメントを投稿しよう!