山の主

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 「たぶん、地滑りや土砂崩れの前兆のことを言ってるんだろうな」  「前兆?」  「ほら、大雨が降った後、山の斜面が崩落したってニュースが流れたりするだろ」  「うん」  「そのとき、地滑りの前兆で、山の斜面からブチブチと音が聞こえることがあるらしいんだ。地面の中の樹の根が切れる音だよ」  オレは座っていた岩から立ち上がると、田沢に説明をしながら空き地の端へ移動した。  今いる場所は、標高100メートルほどだろうか。空き地の端から、斜面の向こうを眺めると、田畑や県道、点在する住宅や倉庫が小さく見える。  「根が切れる音?」  後から田沢が問う。  「雨で地盤がゆるんで山の斜面がズレ始めると、ズレた分だけ樹の根が引っ張られて、地面の中で切れちまうんだよ。  その音が、地面の上まで届いて、ブチブチと聞こえてくるって話なんだ。  この音を、山の主が話し掛けるって例えているんじゃないのかな。  地滑りの前兆だから、すぐに逃げなきゃなんないだろうし」  「でも、伯父さんは、山に呑み込まれたらしいぞ」  「地滑りに巻き込まれたことを山に呑まれたって言っただけだろ」
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