13 店休日◇

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13 店休日◇

「なんだって?店休日?」  唖然とするフィルガルドの前で店先に座り込んだ男は「へい、その通りです」と頷いた。馴染みの店の休日を忘れていた自分にも落ち度はあるものの、確か休日は木曜ではなく水曜日だったはず。 (マドレーヌが休みを変更したのか……?)  なんといっても、今年は多忙を極めて一度も店に来れていない。  ララ・ディアモンテと婚約したことで、一種の決心のようなものが着いたフィルガルドは、長年ダラダラとこなしてきた執務に真剣に向き合うようになった。そんな中でも出来た短い自由時間を使って、ララが寂しくないように自分の友人たちを紹介してみたりもした。  もちろん、すべてが正解ではなかったのだと今なら反省している。古くからの仲であるガルーア公爵家の娘アネットはどういうわけかララを小間使いのように扱っていたようだし、腐れ縁のポールは婚約者の前にも関わらず下衆な話を繰り広げたこともあったから。 「………っはは、」  渇いた笑いが溢れて、酒を手に座り込む男は何事かとこちらを見遣る。  先日の側近との会話で、どうやらララはフィルガルドに気持ちがなかったようだという結論に至った。それならばそうと言ってくれれば良いものを。完全に一方通行だったとは、今更ながら恥ずかしい。 「明日は店は開くと思うか?」  フィルガルドが問い掛けると、男はポリポリと頭を掻きながら「どうでしょうねぇ」と曖昧な返事を返した。 「ここのところママは若い娘に手伝いを頼んどるんです。これがまたよく働く娘でして、おまけにべっぴんさんだからもう…… 女目当ての客がわんさか増えて忙しいみたいなんですよ」 「あの気難しいマドレーヌが?彼女はどんなに忙しくても他人を雇わなかったじゃないか」 「だからワシらも驚いとるんです。でも、まぁ、会ったら分かりますよ。美人で気配りが出来る良い子なんです」 「分かった。お前を信じてまた明日来る」  その時に居合わせたら一杯ご馳走しよう、と約束してフィルガルドは男と別れた。馬車で控えていた衛兵と御者は不思議そうな顔でこちらを見る。 「僕の顔に何か付いているか?」  走り出した馬車の中、窓の外を眺めながらそう聞くと、衛兵の方はガタッと姿勢を正して口を開いた。 「あ……いいえ。殿下が明るい表情をされていたので、何か良い知らせがあったのかと……」 「良い知らせではないな。行こうとした店は閉まっていた」 「さ、左様ですか………」 「明日また来るつもりだ」  視線を落として自分の左手を見る。  白い手袋を抜き取ると、そこには静かに輝く金の指輪があった。裏面にはララの名前が彫られている。婚約指輪を作るとなった際に「何か記念になるものが良い」と伝えたところ、相手の名を刻むのはどうかと技師から提案を受けたのだ。  他人から見れば、ただの指輪。  だけどその裏にはいつもララが居る。  そういえば、ララ本人に指輪を見せたことはあっただろうか。一緒に過ごす時間が短かったのは本当のことで、もしかすると彼女は手袋の下に指輪があったことすら知らなかったかもしれない。
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