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07 キャサリン・べゴットによる証言
何もかも面白くない、退屈だったのは本当よ。
フィルガルドが婚約してからというもの、ポールの集まりにもトンと姿を見せなくなってしまって、彼目当てにパーティーに参加していた令嬢はみんな気怠そうな顔で愚痴を交わしていたわ。
だって、相手の令嬢ときたら本当にパッとしないの。ほとんどスッピンみたいな顔でフィルガルドの隣を歩くなんて信じられる?私なら恥ずかしさで死んでしまうかもしれない。むしろ、死んだ方が幾分かマシでしょうね。
「もう良い加減飽きたのよ、この顔ぶれ」
タバコの煙を吐いた先にはタイミング悪くポールが居たから、大袈裟に咽せた。ウェリントン邸で開催される放蕩者たちの集まりも、フィルガルドが居ないとケーキのない誕生日会みたい。味気ないし楽しくもない。
「仕方がないだろう。誘ったけれど来なかったんだ。僕の家の使用人は傷心中なんだろう、なんて言ってたけど信じられるか?」
「そんなわけないでしょうよ。彼があの地味な女を愛していたと思う?もしそうだったら私はこの先一生甘いものを食べなくて良いわよ」
「それは君にとって死を意味するだろう!」
ケラケラと笑い転げるポールは失礼。
フィルガルドならこんなとき優しく嗜めてくれるのに。
ええ、フィルガルド・デ・アルトンは私たちみんなの王子様だったわ。何人かの幸運な女は彼と寝たなんて言いふらしていたけれど、実際のところどうなのかしらね。女って見栄を張りたがるから。
私は猫の頭が付いたマドラーですっかり氷が溶けたオレンジジュースを掻き混ぜた。これは新しいものと交換した方が良いかもしれない。見た目からして美味しそうじゃないもの。
「彼女、言っちゃ悪いけど釣り合っていなかったのよ」
本音を溢すと何人かの令嬢が「そうよそうよ」と頷いた。
「だってねぇ……天下のフィルガルド・デ・アルトンに選ばれた女が、どうしてあんな日陰の女みたいな出立ちなの?よくある身分差婚にしても、もっと他に相手は居たでしょうに」
「それが彼女、公爵家らしいわよ」
もぐもぐとケーキを平らげながら横から口を挟んだのは、伯爵家令嬢のリリス・ミック。唇に付いたクリームをフイッと拭って舐め上げた。
「公爵家?あの女が……?」
「ええ。アネット様がそれで悔しがっていたもの。同じ公爵家ならばガルーア家の方が歴史が長いってね。本当なのか知らないけど」
「そういえばアネットは今日は不在だな。誰か誘わなかったのか?」
ポールがキョロキョロ周囲に問い掛けるから、私は溜め息を吐いて教えてあげた。
「彼女、寝込んでるのよ。なんでもフィルガルドの元を訪れて追い返されたらしいわ。今は誰とも話したくないんですって」
「おいおいどうしちまったんだよ」
その後、各自が好き勝手に話を展開して、ポール・ウェリントンが開催するパーティーはいつも通りのダラけた流れを取り戻した。
私はこっそりと微笑む。
頭の中でカレンダーを浮かべて、自分の予定が入っていない日はいつだろうかと考えた。お呼び出しが掛かるまで待つべきだろうか?可哀想なアネットには悪いけど、フィルガルドが彼女を受け入れるわけがない。だって彼が婚約を破棄したのは私のためなんだもの。
みんなには言ってないけれど、私はフィルガルドとキスを交わした仲。彼が婚約を破棄する少し前、ポールに呼ばれて参加した食事会で、勢いに任せて彼の唇を奪ったのだ。
あの時のララ・ディアモンテの顔ときたら傑作だったわ。びっくりした顔。無表情で可愛げのないあの子の顔に少しだけ変化があったんだから、きっと悔しかったんでしょうね。
だって、フィルガルドは拒否しなかったもの。
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