01 アネット嬢の友人による証言

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01 アネット嬢の友人による証言

 これは私が公爵令嬢アネット・ガルーア様よりお聞きした話なのですが、どうやらララ様が婚約を破棄されたそうです。  ええ、あのララ様です。  ララ・ディアモンテ……そうですね、あちらの家柄も公爵家だったかしら。あまり交流が無いものですからウロ覚えでして。茶色い髪を箒みたいに結んだ令嬢です。いいえ、悪口なんかではありません。 「本当ですか、アネット様?」  私は姉のように慕うアネット様に顔を近付けます。アネット様は今日も金色の髪を波打たせて、プリンセスのような気品に溢れていました。青い目には友の不幸を憂う涙の膜が張っています。 「そうなのよ、リリス。私は以前からフィルガルド様と彼女の仲を心配していましたの。決して不仲を疑っていたわけではありませんが、なんせ少し………ねぇ」  アネット様が濁した言葉の続きは容易に想像出来ました。  ルーベ王国の王太子であるフィルガルド・デ・アルトンは、国中の令嬢が一度は恋をしたことがあるような美男子です。かくいう私自身も、十代の頃は王子を一目見ようと舞踏会に意気込んで出向いたことを強く記憶しています。  そんな王子が、今年の初めに婚約を発表しました。  当然世間は幸運なお相手の女性に注目しました。私も失意の最中にあるアネット様を誘って、王室が行う会見を直接見ようと宮殿へ出向きました。  そして、暫しショックに見舞われました。  あまりに普通だったのです。  ララ・ディアモンテという名前を聞いたことも無ければ、あの平凡な茶色い髪を舞踏会や茶会で見たこともありません。私は近くに居た令嬢を捕まえて「隣国の貴族かしら?」と尋ねましたが、どうやらそうでも無いようでした。  キラキラと輝くフィルガルド様のお隣で、お相手の方は失礼ながら雑草程度にしか見えません。花を添える役割すら出来ずに、ただ豪華な場に埋もれているようでした。  繰り返し言いますが、これは断じて悪口や陰口ではないのです。私はあくまでも自分が感じた感想を素直に述べているだけであって、会見の後に意見交換をしたアネット様も同じ考えでした。 「まぁ……あまりお似合いではありませんでしたものね。ララ様にとっては残念なことですが……」  きっと今頃両目をパンパンにして泣いていることでしょう。一度は手に入ったルーベ王国の宝が、たった半年でその手から零れ落ちたのですから。  多少なりとも同情のような気持ちを示したつもりで、私はそう言いました。しかし、アネット様は首を横に振ります。 「それがそうでもないのよ」 「え?」 「私はララ様から直接お話を伺うことが出来たんだけど、彼女ったらまったく落ち込んでいる素振りを見せないの。さぞ、悲しんでいるだろうと思って話を聞いていたのに、なんて言ったと思う?」 「さぁ、私にはさっぱり……」  本当に分からないので私は首を傾げます。  アネット様はスンと表情を消して、どこか遠くを見るような目をしました。私にはそれがララ・ディアモンテの真似事であることがすぐに分かりました。 「よくある婚約破棄なので……ですって」
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