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日奈は勢いよく机に突っ伏して、幾度か強く額を打ちつける。
カッターで切りつけられ荒れた机の表面が、彼女の額を傷付けた。
いつもやられっぱなしだった彼女が突然見せた激しい動きに驚き、ゴミを投げていた者達の手が止まった。
その時を逃さず日奈はゆらりと立ち上がり、胸の前で両手を組むと、両膝をついて懺悔するような姿勢をとる。
切れた白く滑らかな額から、どろりと流れた血が制服の白いブラウスを汚してゆく。
ゴミの散らばる床の上で、机と椅子に囲まれていても、その姿は酷く厳かで美しかった。
何事かと静まった教室に、苦しげな声が響き渡った。
「月奈……私は……あなたが羨ましかったの……」
日奈がゆっくりと俯いた顔を上げると、ぱたぱたと溢れた血が床に小さな染みを作る。
「両親はあなたばかり可愛がって、私を見てはくれなかった。だから……悪いことだとわかっていても、気を引きたかったの……少しだけ愛情が……欲しかったの……」
長い睫毛を悲しげに伏せた、その儚い姿に視線が集まった。
「月奈……なんで……なんで死んでしまったの! あなただけが本当の私をわかってくれたのに……どうせ死ぬなら、何も持ってない私が死ねば良かったのに! 誰からも愛されない私が死んだら良かったのに!」
白い頬を煌く涙が伝い、それまで憎しみと嘲笑ばかりだった教室の空気が同情に傾いてゆく。
同じ思春期の子ども達の胸には、多かれ少なかれ何かしらの報われない思いがある。
だからこそ嗚咽混じりのその声は彼らの心に一石を投じた。
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