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その日、舞台挨拶に登場した星奈は恐ろしいまでに美しかった。
すらりとした身体を夜空の色のドレスに包み、艷やかな長い黒髪は露出した白い肌をヴェールのように淑やかに覆う。
ドレスに散りばめられた細かなダイヤの輝きさえ霞むような笑顔は、少女のような儚さが見えた。
彼女が舞台に登場すると、その場の視線は一人の例外もなく彼女に注がれた。
進行役ですら息を飲み、束の間会場の全ての音が消える。
それは異様な光景だ。
壇上に居並ぶのは名の知れた役者ばかりであるにも関わらず、他の誰にも目が向かない。
会場にいる全ての者が、今日の主役が彼女であるということを瞬時に理解した。
はっと気付いた進行役が薄ら笑いでマイクを握り直す。
「主演の田坂星奈さんは先日、枝先監督の『水面の花』で日本アカデミー賞主演女優賞を受賞なさいました。おめでとうございます!」
その言葉を待って、舞台の中央に立つ彼女に花束を抱えた男が近付く。
「田坂さん、おめでとう」
「枝先監督、ありがとうございます。監督のご指導のおかげです」
差し出された花束を受け取った星奈は、頬を緩ませて嬉しそうに礼を言うと、香りを楽しむように大きく息を吸った。
そうしてぱぁっと満遍の微笑みを浮かべる姿は、まるで無垢な少女のようだ。
「今回の『女王は夜闇に嗤う』でも使っていただけて、光栄です」
「今作では『水面の花』の儚く清純なイメージじゃなく、妖艶な悪女を演じてもらう訳だけれど……意気込みでも語ってもらおうかな」
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