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悪魔は日常に忍び込む。
きっかけは些細な事……妹の月奈の膝小僧が擦り剥けた程度の事だった。
「ごめんね、月奈ぁ……」
日奈は妹の横に座り込み、自分が怪我でもしたかのように痛そうに顔を歪めた泣き顔で謝る。
階段でふと立ち止まった日奈に、後ろから上がっていた月奈がぶつかって滑り落ちたのだ。
「大丈夫? 月奈、足ちゃんと曲げられる?」
慌てて駆け寄った母親に、月奈はぽろぽろと涙を零しながら悲しそうに呟いた。
「平気……でも、壊れちゃった……」
差し出したのは先日、10歳の誕生日に姉の日奈と揃いで買ってもらったばかりのゲーム機だ。
液晶画面にヒビが入っている。
「ああ……あら、電源入るじゃない。じゃあ、日奈のと替えてもらいなさい」
「えっ……?」
日奈はぎょっとした様子を見せたが、すぐには拒否できなかった。
その沈黙の合間に口を開いたのは月奈だ。
「お姉ちゃん、わざとじゃない……から……痛いけど……悪いのは月奈だから……」
健気にそう言うと、またわっと泣き出す。
「ああ、可哀想に。日奈が急に止まったせいなんだから、替えてあげなさい。使えるんだからいいでしょ。意地悪しないのよ」
母親は泣く妹を宥め、姉に催促した。
日奈は不満と諦めの入り混じった顔でゲーム機を差し出す。
「お姉ちゃん……ありがとう」
申し訳なさそうに、けれど嬉しそうに月奈が壊れた自分の物と取り替える。
「いいよ」
少し不貞腐れた様子で日奈が言うと、母親は眉を顰めた。
「ごめんなさい、でしょ」
「……ごめんなさい」
渋々頭を下げる日奈に、月奈はふるふると首を横に振る。
「私こそ、転んでごめんね」
しおらしく頭を下げた少女の口元が歪にゆがんだのは、誰からも見えなかった。
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