帰りたい家

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「せ、先輩!? どうしたんですか? 具合でも悪いんですか!?」 休憩室を通りがかったと思しき後輩ちゃんに心配されてしまった。 「あはは、何でもないの。家族に会いたくて」 「……もしかして、遠くにいらっしゃる……とか?」 「え? 3駅先の我が家にいるよ? なんで?」 「え? ……だって、泣くほどって……」 後輩ちゃんが戸惑った様子で首をかしげている。 私は慌てて顔の前で手を振った。 「ち、違う違う! 私が勝手に家族が好きすぎて泣いてただけ! この可愛いお弁当に感極まってただけだから!」 台に乗ってキッチンでお弁当を作ってくれる娘を想像したらもう可愛くて可愛くて……! と無駄に息継ぎもせず熱弁する。 ドン引きしてもおかしくない先輩に、後輩ちゃんは「そうなんですね! 羨ましいなぁ、お弁当を作ってくれる家族がいるなんて」とにこやかに言ってくれた。 「私は甥っ子がいるんですけど、姉はいつも大変そうですよ。元気なのはいいけど元気すぎる~って。家事なんて全然するタイプじゃないですし。ヤンチャで我がままです」 後輩ちゃんが苦笑いで話してくれる。 いいな、男の子か。 私に子どもは1人だけだけれど、もし兄弟ができたとしたら、あの子はどうなるだろうか。今までと変わらず自分のしたいことをやり続けるのか、それとも姉になったことでしっかりした子になっていくのか。 それもそれでいい刺激になるだろうし、家事だけじゃなくて育児にも身が入りそうな気もする。 きっと喧嘩なんかもするだろうけど、少しでも年の近い子と接する機会はあの子には貴重かもしれない。 「先輩? 黙り込んでどうかしました?」 「あぁ、いや。男の子も元気そうでいいなって思って」 「まぁ、姉も大変そうではありますけど、甥っ子のことは大事に思ってるみたいですよ。やっぱり我が子だからですかね? 私は子ども苦手なんですけどね……。自分には子どもはいいかな。……でも甥っ子はちょっとかわいいですけど」 後輩ちゃんはまた苦く笑ったものの、最後に付け足した言葉ははにかんで言っていた。
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