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数年越しの「ただいま」
『出ていく』
たった4文字の書置きを残して、俺は15年過ごしてきた家を黙って出た。
いい家に生まれたとは言い難かった。
束縛ばかりの家だった。
あれはだめ、これはだめ。あれしなさい、これしなさい。こんなことみっともない、はしたない。
中学生になれば思春期やら反抗期やらが来て、俺はこの家があまりにも窮屈に感じ始めた。
普通とは言い難い家なんだと察した。
俺は最低限の荷物を持って、今まで無駄遣いはダメだとろくに使わせてもらえなかったお年玉を持って家を出た。
正直今まで親に感謝をしたことなんてなかったけれど、お年玉を貯められたことだけはさすがに親のおかげと言ってもいいだろう。
とにもかくにも、家を出た俺はまず死にかけた。
一件目のホテルは親の同意がないとダメだと追い出されたから、二件目では年齢を偽った。疑いの眼差しを向けられたが、童顔なだけだと言い張った。それでも身分証を出せと言われてしまった。
三件目、四件目でも同じようなことになり、俺は身を置く場所に困りはてた。
いっそ寝袋でも買って公園の隅で寝てやろうかと考えたが、今は夏の終わり。日中は暑かろうと朝と夜はだいぶ涼しくなった。
ご飯代も必要だし……。今まで貯めたお年玉や小遣いがあると言えど、贅沢に使ってはいられない。
「金も稼がないと……」
俺は年齢を偽ってバイトをしようかと考えた。
年齢詐称がダメだと分かっていても、ひとりで生きていくには稼がなければいけない。
俺はとにかく遠くへ行くことにした。
あいつらに見つからない場所に行きたかった。
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