その仮面が割れるとき

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 彼が入社して半年が経ち、表情からは人懐っこい笑みは消えていた。勿論笑わなくなったわけではない。けれどその笑顔には覇気が無くなっていた。どこか苦しそうに笑うようになっていた。無理矢理笑っている姿が、痛ましかった。  まだ私のことをいじってくるだけマシだと思いたかった。いじって笑ってくれた時だけ、昔の人懐っこい笑みを連想した。 「有川さん」 「ん?」  有川さんが優しい笑顔を浮かべてくれる。あ、まただ。無理矢理笑ってる。 「何か、私が手伝えることはありますか?」  営業時間が終了し、締め作業が早めに終わった。皆帰り支度をしているが、私は有川さんが気になって仕方が無かったので、残っていた。 「いや、あと残ってるのは事務作業だけだから。大丈夫だよ、ありがとう千香さん」  そう言って有川さんがパソコンに向き直る。  知ってるよ、私。社員が少ないのにキャパオーバーな仕事を上から振られてるから、残業しないといけないんだよね。でも残業のし過ぎは会社としての体裁が悪いから、タイムカードを切ってから残業してるんだよね。何連勤もしてるのだって知ってるよ。家に仕事を持ち帰ってるのも知ってるよ。今の時代に合わないワークスタイルをしていること、全部知ってる。  有川さんがこっちを見た。私はドキッとして、目を逸らす。有川さんがパソコンを閉じて、私と向き合ってくれた。 「千香(ちか)さん、何か相談でもあるの?」 「あ、いや、そういうわけでは……」 「どうかした?」  私がもじもじして俯いていると、有川さんが顔を覗いてきた。「顔色悪いよ?」と言って心配そうに見つめてくる。 「あのっ!!!」
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