その仮面が割れるとき

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 思わず大きな声を出していた。有川さんがビックリして目を丸くしている。すぐに「すみません……」と先程の声量を出した人間とは思えないくらいの声の小ささで言った。 「ビックリしたー。どうした?」 「何か私にお手伝いできることはありますか?」  少しの間を置いてから「いや、ない」とポカンとした表情で有川さんが言った。 「いや、あります」 「ううん、ない」 「あります」 「ない」 「あります」 「な──」 「あります!!」  有川さんの声を遮って、私は「あります!」ともう一度言った。有川さんが目をパチパチとさせる。 「どうした……」  有川さんが困惑した表情を見せる。もう他のスタッフは支度を整えて帰ったらしい。事務所から聞こえてきた騒がしさが一気にしんと静まり返っていた。 「有川さん、働きすぎだから。このままいったら過労死コースまっしぐらですよ。仕事投げ出して温泉にでも行ってきてください」 「ありがとう、心配してくれて。でも大丈夫だよ。今日だって、あとちょっとの事務作業で終わるし」 「……本当ですか?」 「うん、本当。あとこれさえ打ち込んだら……終わった」  有川さんがキーボードを叩いて、保存ボタンを押した。ニコッと笑顔を浮かべる。ちょっと苦しそうだけど、まだマシな方の笑顔だ。パソコンを閉じて近くにあった鞄に仕舞うと、「帰ろ」と言ってくれた。 「どうせ、嘘なんでしょ。家で仕事するんでしょ」 「しないよ。今日はしない。本当に終わったから、心配しないで。ほら、帰ろ」  私はこくりと頷いて、大人しく事務所に行った。すぐに制服から私服に着替えて事務所を出る。外では有川さんが鍵を持って待っていた。私が事務所を出ると、事務所に鍵をかけた。
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