その仮面が割れるとき

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◇ 「しかし、何で?」  私は目の前に広がる大自然にぽつりと言葉を落とした。その日、有川さんは出勤予定だったが熱を出したと嘘をついて会社を休んだ。私は大学で授業があったが、初めてサボった。そして私たちは、山を登ることになった。山頂まで登った時には、どうして今自分は山を登っているのだろうと不思議で仕方が無かった。 「やっぱ身体動かすことがいいかなって思って」 「それで、山?」 「うん。自然いっぱいだからマイナスイオンとかも浴びれるかなぁって思って。あれ、違った?」 「いや、てっきり海とかドライブとか夢の国とか。そういうものかと」 「あー、確かに。江の島とかね。忘れてた」  私は苦笑いを浮かべながら、持ってきたお弁当を出した。山を登ることは事前に聞かされていたので、簡単に食べれるおにぎりと野菜スティックが今日の昼御飯だ。 「それで、スッキリしました?」 「したー!」  犬のように笑った。その笑顔にきゅんとする。バレないようにおにぎりを頬張った。 「ありがとね、千香さん。背中押してくれて」 「どういたしまして」 「俺、また起き上がれそうだわ」 「よかったです。起き上がれなかったら起き上がれなかったでいいんじゃないですか、とか言っときながら内心辞めたら困るって思ってました」  正直な気持ちを話すと「辞めないよ、まだ」と有川さんが笑って言った。 「まぁ一年は頑張るつもりでいる。だから、あと半年?」 「悲しい事言わないでくださいよ。せっかく年齢近いのに、辞めたら悲しいです……」 「何、俺と仲良くなりたいの?」  図星のことを言われて、反応できない。すると「図星か」と有川さんが言った。 「悪いですか」 「いや、嬉しい。俺も千香さんと仲良くなりたかったから。仕事できて、面白くて、真っすぐで、こんなに子いるんだーって思って。仲良くしたくなるでしょ」
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