その仮面が割れるとき

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 自分が勤めているアルバイト先がブラック企業だと気が付いたのは、カフェでアルバイトを始めて半年が経った頃だった。  ただのカフェではない。私が働いているのはコラボカフェといって、期間限定で色んな作品とコラボして、料理を提供するカフェだ。昔からアニメが大好きな私は、同じく推し活を楽しむ人たちに笑顔を届けたいと思って、ホールスタッフとして働いている。  始めた時はまだ社会のことなんて何も分かっていない学生だったから、特に不思議に思わず割り振られた仕事を熟していた。  けれど半年が経ち、同時期に入社した社員の表情が入りたてと比べると似ても似つかないくらいのやつれた表情をしていることに気が付いた。私と話している時は笑顔でいてくれているが、一人でいる時は目が死んでいる。誰だってそうだろ、と思うかもしれないがその目の死に方は尋常ではなかった。その姿を見て、同じ職場の友達は「かと思った」と言っていた。確かに、幽霊みたいだ。生気がない。  だからこそ、新卒で入った新しい社員の表情がみるみるやつれていくのを見ると心苦しかった。  社員の有川(ありかわ)さんは、犬のように笑う人だった。全員に優しく、仕事ができ、アルバイトのメンタルの変化や体調不良にも敏感だった。私も一度貧血で体調が悪い時、真っ先に気づいてくれたのは有川さんだった。優しい言葉をかけてくれる人だった。  初めて会った時は、一体この性格で何人の女性を落としてきたのだろうと思った。勿論、自分もまんまと落っこちた。多分、他の子も落ちてるんだろうと思ったが、案外そうではないらしい。  彼に惹かれているからこそ、彼の心境の変化に敏感になった。
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