女房たちの井戸端話

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五街道からそれぞれ江戸に入る際の一番初めの宿場町である、品川宿(東海道)・内藤新宿(甲州道中)・板橋宿(中山道)・千住宿(日光道中・奥州道中)には、春を(ひさ)ぐ「岡場所」が設けられている。 されど、御公儀(江戸幕府)からお墨付きをもらっている吉原とは異なり、正式な遊里(遊郭)ではない。 「ええっ、おすみの亭主は御武家だった男だろ。なのに、そないな卑しいおなごを女房にしたってのかい」 「御武家っ()ってもさ、お故郷(くに)をおん出て江戸にやってきたっ()う田舎侍なら、おすみみてぇなおなごに()っかかるのもしょうがあんめぇ」 「ちょ、ちょっと、もう()しなって」 隣の女房がぐいっと肩を掴んだ。 「なんだよ、濡れた手で触んじゃないよ。それに、あんただって先刻(さっき)……」 いきなり掴まれた方はキッと睨むが、次の刹那押し黙らざるをえなくなった。 女房連中がめいめい好き勝手にくっちゃべりながら洗い物をしている井戸端に、いつの間にか丑丸が近づいてきていたのだ。 おすみに置き去りにされた倅で、まだ(よわい)八つの子どもだ。
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