キミが世界の創造主

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 ふらりと何気なく、そして初めて入った路地にそれはあった。 「へー、こんなとこにまであるんだ」  営業しているのかどうかも怪しい、推定雑貨屋の店先に置かれた、一台のガチャガチャ。いつから置かれているのか、筐体を飾るPOPは随分日に焼けている。 「んー……世界、創造?」  キミが世界の創造主、なんて売り文句を鼻で笑いながら、ラインナップを確認した。  山、森、湖、川、海……うん、大自然。  山一つとっても、見るからに高く険しい山、なだらかな稜線を描く山、雪山、火山、など種類は豊富だ。  筐体の脇から覗き込むと、大量の真新しいカプセルが詰め込まれているから、補充されているらしい。 「試しに一つ」  財布から小銭を五枚取り出し、投入、ハンドルを回す。  ガチャン。  転がり出てきたカプセルを開けると、そこには緑豊かな【The・山】があった。 「なるほど、この土台が他のパーツと連結出来るんだな。意外と作りもいい。ま、五百円もするし、当然か」  ブツブツと山への批評を終えると、空のカプセルをゴミ箱に入れた。  一つ手に入れると、つい集めたくなってしまうのがガチャガチャというものだろう。コンプリート欲とでも言おうか、翌日には他のパーツも欲しくなった。 「連結できるなら、山にあっておかしくなさそうなやつがいいよな。木とか、川とか」  街中のガチャガチャショップを回ってみるけれど、世界創造は見当たらない。マイナーなのだろうか。  ぶらぶら歩いて腹が減ったので、行きつけの定食屋に入ることにした。 「生姜焼き定食、大盛りで」  待っている間にスマホゲームで時間を潰す。壁にかけられたテレビでは、昼の、ワイドショー寄りのニュースが、どこかの山の特集をしていた。 『ご覧ください! あれは蜃気楼でもプロジェクションマッピングでもありません! …………』 「あ……湖か」  改めて世界創造を回しに行くと、今回は湖だった。  ガチャン。  川。  ガチャン。  雪山。  ガチャン。  大木。  ガチャン。ガチャン。ガチャン。ガチャン。ガチャン。ガチャン。ガチャン。ガチャン。 「うーん、こうなってくると建物とかも欲しいよな」  まぁ、大自然しかないのだけれど。  リュックに結構な数のパーツが溜まったので、今日のところはやめておこう。海も欲しかったなぁ。  ガチャン。 「川……」  こういうのはやめ時が肝心だ。  家でスマホゲームをしていると、ニュースアプリが速報を鳴らした。 『空に現れた謎の大自然、続々拡大』 「邪魔」  サッとスワイプして通知を除ける。あぁ、いい感じだったのに、もう……。    つい足が雑貨屋に向かう。雑貨屋に用はないけれど、世界創造はあそこにしかない。  店には今日も人気がなく、予め小銭を大量に用意してきて正解だった。 「増えてるじゃん」  なんと、真新しいPOPがセットされ、ラインナップに建物がある。これ幸いとガチャガチャを回しまくって、帰りはホクホクだった。  最後によく分からないパーツも出てきたけれど、何か別のものが紛れ込んだのかもしれない。今度雑貨屋に返品出来ないか聞いてみよう。いつ開いてるのかわからないけれど。  だいぶ数の増えたパーツを家で組み合わせてみる。 「どんな配置だよ、これ」  好き勝手に組み合わせてみて、自分のセンスを自分で笑い飛ばした。さすがに城の隣に高層ビルはないか。  作り直すかな、と考えていると、ふと窓の外が暗くなった。 「雨でも降る……」  窓の外の空を見上げて、言葉を失った。きっと口もぽかんと開いていたと思う。 「何あれ……?」  空に山があった。湖があった。川が、雪山が、大木があった。  それに、どんな配置だよって突っ込みたくなる。  吸血鬼が住んでいそうな城の隣に、タワマンが建っているのだ。  どれもこれも半透明で、空をスクリーンにしたプロジェクションマッピングだと言われたら信じるだろう。  でも違う。たぶん違う。 「え、だって……さっき……?」  机の上で自分が組み合わせたパーツが、空にある景色と同じような配置になっている。  ふらり、と、よろけて手をついた机には、最後に出てきたよく分からないパーツがあった。  自然でも建物でもない、謎のパーツ。  シリーズが違うんだ。きっと関係ない。  そう思いたいのに、パーツを持つ手はかたかたと震えている。  それは、赤いボタンだった。服のボタンじゃない。ミサイルを発射する時はきっとこういうボタンを押すんだろう、っていうような、黒いBOXの中央に赤いボタン。思わず押したくなる赤いボタンだ。 「これ……押したら、どうにかなる……の?」  押したらどうにかなるのだろうか。  それとも、押さなければどうにかなるのだろうか。  空に浮かぶあれは、たぶん世界創造で。  このボタンが出たのも世界創造で。 『キミが世界の創造主』  POPの謳い文句が、頭の中で踊っている。  緊張で急激に冷たくなった指先で、小さなボタンに触れた。 「ど…………どうしよう…………」  押すべきか、押さざるべきか。  誰か、教えて……。
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