第三話

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第三話

 突然の第二王子の訪問で、ミレルバの住む屋敷は大騒動になってしまった。そんな中、私とアレクシスは、調度品の並んだ立派な応接室で、ミレルバと久しぶりの対面をした。 「懐かしいわミレルバ」 「エルフィーナ様もお元気そうで何よりです」  なぜかミレルバはよそよそしく、硬い顔をしている。  そんなミレルバにアレクシス王子はさっそく話し始めた。 「君はラファエル王子にいろいろと進言したそうじゃないか。このままでは、エルフィーナは投獄されてしまうんだ。君は本当にそうなってもいいと思っているのか?」  ミレルバはじっと下を向いて固まっていた。  私はアレクシスがミレルバに何を問い詰めているのか全くわからずにいた。 「進言とはどういうことですか?」 「ミレルバはラファエル王子に、君の悪事をさんざん吹き込んだ張本人なんだよ」 「ミレルバが?」  魔法学校時代、ミレルバと私は大の仲良しだったはずだ。 「ミレルバ、君の進言は事実なのか? 正直に話してくれないか」 「……」 「このまま嘘をつき続けるなら、今後君は罪に問われる可能性もあるんだ。さあ、教えてくれ」  やがてミレルバは、ぽつりと語り始めた。 「……私ではないのです。すべては聖女イリス様の指示なのです」  ミレルバの話はこのような内容だった。  聖女イリスは、私とラファエル王子の婚約を解消させようと企んでいた。そのため、ミレルバを使って、私の悪い評判をラファエル王子に流し続けた。  その悪い評判とは、私が公爵令嬢の地位を利用し、ひどいいじめを聖女イリスに繰り返したこと。しかも自分では手を下さず、取り巻きの連中を使い狡猾にいじめていたこと。あとは、私の男性関係や侍女たちへの酷い扱いなど、どれほど私がひどい女かということを、繰り返しラファエル王子に報告し続けた。  もちろんすべてはイリスが考えた作り話なのだが。 「エルフィーナは、堕天使を使いイリスを呪い殺そうとしたことになっているが、それについて知っていることはないか」 「それも作り話です。イリスは隠していますが、彼女は堕天使と話す能力を持っています。その能力を利用して堕天使と話を合わせたのだと思います」  私は、唖然としながらミレルバの話を聞いていた。  話が真実なら、本当の悪役令嬢は、私ではなく聖女イリスだ。 「どうして君は、こんな非道な行為に加担したんだ?」 「イリスに弱みを握られていたのです」  ミレルバは下を向き話を続けた。 「魔法学校時代、私はある男性をお慕いしていました。でもそのお方はエルフィーナを好いておられるようで、嫉妬した私はイリスに協力してもらい、二人の悪い噂を流して仲を割いたのです」  ミレルバそれだけ言うとふっと息を吐き出し、話を続けた。 「そのことがあってから、イリスは私を手下のように扱いはじめました。そんな関係が続き、私はイリスの思うがままに操られることになったのです」 「弱みを握られて、脅されていたのだな」 「……はい」  うつむいて小さくなっているミレルバを見ていると、なんだか不憫に思えてきた。ひどい友人だけど、こうやって事実を告白したのには罪の意識があったからに違いない。だったらもう、これ以上彼女を責めてもしかたがない。 「わかったわミレルバ、本当のことを言ってくれてありがとう」  その言葉を聞いたミレルバは、ハッとした顔をして私を見た。  そして震える声でこう言った。 「ごめんなさい、本当にごめんなさい……」  私とアレクシス王子は、そんなミレルバを残して屋敷を出た。そして、宮殿へ戻るため、足を早めた。  そう、もう約束の二時間が迫っていたのだ。  今、ミレルバから話を聞いて分かったことは、どうやら私は聖女イリスの陰謀で無実の罪を背負わされているということだ。  それにしても、どうしてイリスは私を罪人にして牢屋に放り込もうとしているのだろうか。なにか目的があるのだろうか。 「聖女イリスは、とんでもない悪女だよ。偽善者ぶっているところが余計に恐ろしい」  並んで歩くアレクシス王子がそうつぶやいた。 「先ほど私の刑が宣告されたときも、何とか私を助けようと見せかけの演技をしていました」 「見せかけの演技? どういうこと?」  私はイリスが行ったコイントスの話をした。おそらくは両面が表のコインを使い、出るはずのない裏面が出たら無罪にすると言ってきたことを。 「よくそんなことを思いつくものだ。恐ろしい女だ」  アレクシス王子はあきれ顔で首を傾げたのだった。   ※ ※ ※  宮殿に戻ると、私は先ほど刑を宣告された部屋とは別の広間に連れてこられた。  そこでは、立食の晩餐会が行われており、美しいドレスで着飾った貴族たちの賑やかな声が聞こえたきた。  そんな中で、ラファエル第三王子が聖女イリスを連れ、私の目の前に現れた。 「よく逃げずに戻ってきたな。そこだけは褒めてやる」  ラファエル第三王子はちらりと私の横に並ぶ人物に目を向けた。 「アレクシス、どうしてお前がこんなところにいるんだ」  ラファエルの言葉には返事をせず、アレクシス第二王子は奥に座るバイロン国王に挨拶を始めた。 「国王、予定より早まりましたが、たった今戻ってまいりました」 「うむ。向こうでしっかりと魔法の勉学に励んでいたと聞いておるぞ」 「はい。たくさんの珍しい魔法を習得してまいりました。国のためになる魔法もございます。今後は学んだものをしっかりと活用できればと思っております」 「期待しているぞ」  そんな会話をさえぎるようにラファエル王子が声をあげた。 「アレクシス、今はお前なんかには構っている暇はない。これからエルフィーナの罪をあらためて皆の前で明らかにするところだ。お前は黙って後ろで見ているんだな」  ラファエル王子とアレクシス王子は異母兄弟で、仲が悪いことでも有名だった。 「そのことですがバイロン国王、私はここにいるエルフィーナが無罪であることを証明するために急いで戻って参ったのです」 「無罪だと!」  ラファエル王子が苛立った声を出した。 「何を言うか! エルフィーナは聖女イリスをいじめ抜き、最後はその命まで奪おうとしたのだぞ!」 「エルフィーナがイリスをいじめていた事実はございません。少し調べればすぐに分かることです」 「いじめは間違いのない事実だ。こちらにはしっかりとした情報が入っているのだ」 「その情報がいい加減だといっているんだ」  周りの貴族たちは二人の王子のやり取りを、緊張しながら聞いていた。  そして私は、四方八方からの視線を浴びることで、頭がクラクラし、立っているだけで精一杯だった。 「まあ、いじめの問題は一旦置いておくとする。ただ、一番の問題は別にあるのだ。このエルフィーナは、聖女エリスを呪い殺そうとしたのだ。堕天使から証言が取れている。これについては言い逃れができないぞ」  ラファエル王子の言葉を受けて、バイロン国王が口を開いた。 「確かに、堕天使の言葉には重いものがある。エルフィーナに対しては、その罪が最大の問題となっておる」 「その堕天使の証言を訂正したくて、私はこの場にきたのです」 「ほう、何か新しい証拠でもあるのだな」 「私は、すべての人々が堕天使の姿を見ることができ、しかもその声を聞き取ることもできる珍しい魔法を習得しております。今からその魔法を使って堕天使の首領を呼び出します。そして、エルフィーナの無実を証明したいと思います」  アレクシス王子は、はっきりとした声でそう述べたのだった。
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