第3話 棒ほど願って、よじれて叶う その3

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第3話 棒ほど願って、よじれて叶う その3

 時間がどれほど経ったか定かではないが、突っ立っていて事態が何も進展する事がないと身に染みた時、自然と足が動き始めていた。  どうして? なぜ?  様々な疑問が頭を埋め尽くすが、答えは出ないし出るはずもない。  やがて悩みはようやく現実問題へと辿り着いた。 「仕事探すか……」  自然と口から言葉が漏れたのと同時に、自宅の玄関前に到着したのだった。   * ――職歴ですか?はい、正社員の忍者をずっとやっておりました――  事実だ。まごうことなき事実ではある。  ……が、自分にはそれを告げられた瞬間の面接官の反応がまったく想像できなかった。  いくらなんでも非常識が過ぎる事は理解できた。 「そもそも、俺は何の仕事にしたものか……」  転職するかと口走っていたものの、どっしり腹を括ってというステップを迎える前に、先生パンチでK.O.されてしまった。 「とりあえず、手近なアルバイトからはじめてみるか」  先日買った仕事情報誌をパラパラとめくりながら、これから先に期待と不安の入り混じった感情に身を任せるのだった。 【仕事1つ目 ファーストフード店の場合】 「その顔で……39歳!!?」  面接で開口一番に言われたのは想像もしていなかった台詞だった。  自分は年齢と顔……もとい、外的な成長に差があることをすっかり意識していなかった。  なぜ証明写真を撮った時や、履歴書を書いているときに気が付かなかったのか不思議でしょうがない。 「なるほど。人員削減の急なリストラで、ひとまず食うを凌ぎたいと」 「はい、長時間の立ち仕事なら自信がありますし」 「わかりました。ひとまず明日から入ってみましょうか?」  前職のことはとりあえず“警備会社の正社員だった”という事にした。  嘘は言っていない。  そうして店の方もフルタイムで働けるクルーは歓迎とのことで、大きな問題はなく採用された。  そして勤務初日を迎えキッチンに入ることになり…… 「オーダー入ります。チーズバーガーセットひとつ」 「はい、できあがりました」 「はっ、はやいね?」 「こっちは御月見バ」 「はい、できてます」 「ビックマ」 「こちらに」  作るのが早すぎて気味が悪いとのことで追い出されてしまった。  店長に促されてカウンターに入ったものの…… 「君のカウンターだけ不自然にお客さんが並ばないのはなんでなの……?」 「なんでですかね……?」  店長と一緒に不自然な事態に首を傾げるが、お客さんも理由はわからないようだった。 「陰柄さん。あなたの人間性は疑っていないし、お仕事もできるんだけどね……?」  他のクルーが不気味がってシフト作成に支障が出るとのことでクビになってしまった。  後に判明したが、人目から注意を逸らす術が悪さをしており、そもそもお客さんの認識から外れてしまっていたことが原因だった。  その後、様々な場所で奮闘するも、 ~アパレルショップ(当日クビ)~ 「なんでおすすめのコーデを聞いたら覆面がついてくるのよ!?」 「すみません、クセで……」 「こっちはセンスふっるいよ! いまどきシャツ腰に巻いたり、ジャラジャラのシルバーチェーンなんて誰もしないよ!?」 「なんだって……ッ!?」 ~公営プール(当日クビ)~ 「監視員が溺れたって連絡がありましたが!?」 「えっ、20分くらい水に潜って溺れる人がいないか監視してただけですが……」 「え?あぁ……うん。なるほど。ちなみに、監視員が水の上を歩いていたなんて言ってきたお客さんがいたんだけど、何かした?」 「イエ、知ラナイデス(やっちまったッ!)」 ~居酒屋(当日クビ)~ 「絡んできた迷惑な酔っ払い客でも全員失神させちゃダメじゃないか!」 「抵抗させないのが一番良いかと思いまして……」 「そんなわけないだろ!」  * 「……………………」  夕暮れの河川敷で独り膝を抱えていた。  俺はこんなにも一般常識に疎かったのかという現実。  もしクビを宣告されていなかったら?というたらればが顔を覗かせる。  とはいえ、どれだけ考えようと自分が学校に顔を出すことはもう無い。  取り返すことのできない現実が重く背中に伸し掛かり、日が暮れて往く周囲と一緒に暗闇に沈んでいくのだった。
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