善意の結果

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 中途半端な善意が、最悪の結果をもたらすこともある…他人事のように、俺はそう思ったのだ…。                * * *  朝起きて、彼はなんだかとても気分がすっきりしているのに気付いた。昨夜、寝る前まで、とても嫌な気分だったのに。というのは、つい最近、彼は親友だと信じていた人に騙されてしまったのだ。騙された内容はそこまで大したことではないのだけれど、騙されたという事自体が、彼を嫌な気持ちにさせていた。親友だと信じていた人に騙されていたのだから、それも当然だろう。ただ、それでも、親友がそのことについてきちんと謝罪してくれれば、彼もそれを受け入れていたはずなのだ。 それなのに、親友は彼に対して謝罪をするどころか、騙したという事を何とか誤魔化そうとするのだった。それが彼をますます嫌な気持ちにさせた。そしてそれをきっかけに、彼の中に悪意が生まれた。彼は基本的に、善意の方が強い人間だったから、その中に生まれた悪意は、とても苦しいものだった。そして、この苦しみを、親友に味わわせたくなったのだ。  そんな気持ちが、朝になるとすっかりなくなっていた。寝たからすっきりしたのだろうか、とも彼は思ったけれど、そんなはずはない。親友に騙されたのは一週間も前の事で、それから何度も眠ってはいるのだ。そしてその間ずっとすっきりする事なんてなかった。むしろ、目が覚める度に親友に騙されたという現実に打ちのめされる。それが突然、すっきりしたどころか、親友の事を許そうという気持ちにさえなっている。親友がそんなことをしたのは何らかの理由がある筈だ。その理由を聞いて、それ次第では受け入れることだってできるかもしれない。そんなふうに考えると、人を許す事の出来る自分の事も好きになれる。何故こんな気持ちになれたのかは分からないけれど、とにかく気分が良くて、こういう気持ちになれたことに、彼は感謝するのだった。
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