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ホー、ホー、ホー。梟の声が響く夜。街のはずれにある森の中、ランが照らす光の道をオレ、ファルマーと親友カイトが付いて歩く。ザクザクザクっと落ち葉を踏みしめる音が3人以外に歩いている者はいないと示している。落ち葉を踏みしめる音が終わり、サッサッサッと草の軽い音へと変わる。
「よし!ついたぞ」
森の中に突如大きく開けた場所がある。何故かこの一帯には木が生えていない。月明りが差し、木のない一帯を明るく照らす。ここだけ別世界のようなのだ。
「よし!カイトやろうぜ」
「うん、いつでもいいよファルマー。準備はできてる」
カイトから距離を取り、気合いを入れ、向かい合う。
「怪我しないようにね。もう子供じゃないんだから…こんな遊びやめればいいのに」
ずっと一緒にいるのに、まだこの真剣勝負を遊びだと思ってるのか。頭脳明晰のお嬢様には強くなりたいっていうオレ達の気持ちは分からないんだろうな。
腰に差した剣を抜く。剣と言っても本物ではなく木で作られた木剣だ。だがこの木剣は、ゲート騎士団が訓練でも使っているもので、丈夫で精巧に作られている。
オレは剣を両手で強く握り、カイトに向かって全力で走り、その勢いのまま大きく上斜めから振るう。カイトが咄嗟に剣で受ける。カイトは力を受け流すように体を回した。力をいなされたオレは、地面を強く蹴りカイトの方を向きなおし、横から剣を切りつける。カイトは後ろへ飛びギリギリで避ける。着地と同時に反動を利用し、上へと飛び、剣を振り下ろした。カイトは剣で受け止めようとしたが、上からの力も加わり、受け止めきれずに剣ははじき飛んだ。反動で少し後ろに下がったオレは、カイトに剣先を向け勝利を宣言しようとした時だ。カイトが左手を右腕に添え、右手の平をこちらに向けた。やばい!左手から右腕に力を集めている。次の瞬間、右手の手の平の中央が赤く光り、小さな炎の塊が勢いよく飛翔する。これは絶対に食らってはいけない。咄嗟に全力で右足で地面を蹴り、体ごと地面に滑り込んだ。ズドーーン。小さいながらパワーを感じる爆発音がする。倒れたまま後ろを覗き込むと地面が焦げている。あぶねぇ。あれ当たったらシャレにならなかったな。
「ご、ごめん。手加減したつもりだったけど、思ったより力が入ってた」
「あぶねーよ!でもやっぱすげえな。火のギフトの力」
「ファルマーの剣術と運動能力もすごいよ。ギフトの力がないともう太刀打ちできなくなっちゃったね」
「ギフト」は、生まれた時から持っている固有の能力だ。ギフトの能力は遺伝で決まる。親と祖先からもらった贈り物だから「ギフト」と呼ばれるようになったそうだ。カイトは火のギフトの持ち主で、ランは光のギフトの持ち主だ。火も光も国の中でも重宝されているギフトだ。ランはいつもギフトでここに来るまで光を照らしてくれている。おかげで真っ暗な夜にこの森まで来ることができる。
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