5話 婚約者ギスラン

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5話 婚約者ギスラン

 その日の昼休みのこと―― オリビエとエレナが大学内に併設されたカフェテリアで食事のお茶を飲んでいるときのことだった。 「え? 何て言ったの? オリビエ」 ココアを飲んでいたエレナが首を傾げる。 「だから、アデリーナ様とお近づきになるにはどうしたらいいのかと相談しているのよ」 オリビエは紅茶を口にした。 「お近づきになるなんて……あの方は4年生で、しかも侯爵令嬢なのよ? 私達みたいな子爵家の者が迂闊に近づけるような方じゃないわ。しかもね……」 エレナは辺りをキョロキョロ見渡し、オリビエに顔を近づけてきた。 「アデリーナ様って、気が強いことから……一部の女子学生たちから恐れられているの。どうやら悪女って言われているらしいわ」 「悪女ですって!」 驚きでオリビエの口から大きな声が飛び出す。その言葉に周囲に座っていた学生たちが一斉に2人に注目する。 「ちょ、ちょっと! 声が大きいわよ! 周りに聞こえるじゃないの!」 エレナが小声で注意した。 「ごめんなさい。ちょっと驚いてしまって……でも、何故悪女と呼ばれるのかしら。自分の婚約者が他の女性と一緒にいれば注意するのは当然だと思うけど……」 オリビエは婚約者と妹の仲が良いのに、咎めることが出来ない自分と比較する。 「そう言えば、オリビエ。今朝、ギスランが後夜祭のダンスパートナーになってくれるか分からないと言ってたけど……最近、どうしてしまったの? 以前は大学内で時々一緒に行動していたのに、最近はさっぱりじゃないの。もしかして何かあったの?」 「それは……」 エレナに今の自分の現状を説明しようか、迷ったそのとき。 「あれ? その後ろ姿……もしかして、オリビエじゃないか?」 不意に背後から声をかけられた。 「え?」 振り向くと、婚約者のギスランが友人たちと一緒にいた。 「ギスラン!」 婚約者から声をかけられたことが嬉しくてオリビエは立ち上がり、笑みを浮かべる。 「ちょうど良かった。今度の休みに、またお邪魔しようかと思っていたんだ。都合は大丈夫そう?」 「そうだったのね? ええ、勿論大丈夫よ」 笑顔のままオリビエは頷き……次の瞬間、凍りつくことになる。 「そうか、ではシャロンによろしく伝えておいてくれ」 「!」 オリビエの肩がビクリと跳ね、エレナの息を呑む気配が伝わってくる。 「え、ええ。あなたが来るから家にいるようにってシャロンに伝えておくわね」 何とか笑顔を作るオリビエ。 「頼んだぞ」 ギスランはオリビエの変化に気づくこともなく、友人たちに「行こう」と声をかけてその場を去っていった。 「……」 その後ろ姿が見えなくなると、エレナが憤慨した様子でオリビエに話しかけてきた。 「ねぇ! シャロンって、確かリディアの異母妹じゃなかった?」 「そうよ。それに……まだ15歳なの」 「はぁ!? 何それ! 仮にも婚約者の前で異母妹に会いに行く話をしたわけ!? しかも15歳って……! あり得ないわ!」 「ギスランには……妹がいないから、シャロンを可愛がっているだけよ」 オリビエの言葉はエレナにとっては苦しい言い訳にしか思えなかった。 だから、エレナは親友をこれ以上問い詰めるのはやめることにした。 「そうね。将来は義理の妹になるわけだから……今から仲良くしているのはいいことかもしれないわね」 「ええ、私もそう思っているの」 オリビエは頷きながら、今朝出会ったアデリーナのことを思い出すのだった――
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