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56話 家族の団らん
その日の夕食の席でのこと――
オリビエがダイニングルームに顔を出すと、いつの間に和解したのかミハエルも同席していた。
「おお、来たようだな。オリビエ」
「待っていたよ。オリビエ」
父であるランドルフとミハエルは不気味なほど笑顔でオリビエを迎え入れた。
「どうも……」
少しだけ鳥肌を立てつつオリビエが席に座ろうとすると、ミハエルが素早く立ち上がって椅子を引いた。
「さぁ、可愛い妹よ。お兄様がお前のために椅子を引いてあげたぞ。座るが良い」
「……ありがとうございます」
ますます不気味な気持ちになりながら、礼を述べるとミハエルはニコニコ笑う。
「な〜に、気にするな。兄として当然の仕事をしたまでだ」
「はぁ……」
席を引くことが兄としての仕事かどうか疑わしいが、一応返事をするオリビエ。
「うんうん、仲の良い兄妹だ。やはり家族はこうでなくてはな。では、食事を並べてもらおう」
その言葉に合わせたかのように、給仕たちが現れて料理をテーブルの上に並べていく。美食貴族と言われるだけあり、今夜も見事な料理だった。
全ての料理が並べられるとランドルフは声をかけてきた。
「では、家族団らんの夕食会を始めようか?」
「はい、父上」
(シャロンと義母がいないのに、家族団らんと言っていいのかしら)
素朴な疑問を抱きつつ、オリビエも「はい」と返事をすると3人だけの夕食会が始まった。
カチャカチャとフォークやナイフの音を立てつつ、ランドルフとミハエルの白々しい会話が始まった。
「どうだ。フォード家自慢の料理は?」
「はい、とても美味ですね。やはり家族団らんの食事は美味しいです」
「そうだろうとも。今夜はまさに本物の家族だけの食事会だからな」
「ええ。強い絆で結ばれた真実の家族ですから」
「……」
しかし、オリビエは2人の話を半分も聞いていなかった。何しろ今のオリビエの頭の中をしめているのはアデリーナのことだったからだ。
(今日の出来事で、アデリーナ様はすっかり人気者になってしまったわ。もう私の出る幕はないわね。マックスからアデリーナ様と食事に来て欲しいと言われていたけど、誘うことも難しそうだし……)
「ゴホンッ! ところでオリビエ」
不意に父親の咳払いでオリビエは我に返った。
「はい、何でしょうか? お父様」
「うむ。驚くかもしれんが、実はシャロンは明日から修道院に入ることになった。それに母親であるゾフィーもな」
「……え?」
オリビエはフォークで肉を刺すと口に運ぶ。その様子にランドルフは首を傾げた。
「何だ? 驚かないのか?」
「いいえ、とても驚いています。なので一瞬言葉を無くしただけです」
「そうだろう? 驚くよな? 何しろいきなりの話だから! アッハッハッ!」
ミハエルは何が面白いのか、テーブルをバンバン叩く。もはや貴族の品格も何もあったものではない。
そんなミハエルを無視し、オリビエは父親に尋ねた。
「一体、何故修道院行きになったのですか?」
「そんなのは当然だろう? まだたった15歳で色々な男と寝てきた娘をこのまま家に置いておけるものか。第一世間の恥ではないか。それに生娘でもない者を誰も娶る気など無いだろう。全くとんだアバズレ娘だ」
およそ父親とは思えないセリフを、堂々と口にする。そんな父を軽蔑の眼差しで見つめながらオリビエは疑問を口にした。
「シャロンが修道院行きになったのは分かりましたが、何故義母まで一緒に修道院に行くのですか?」
「あぁ、そのことだがな。どうしてもシャロンを修道院に送るなら、私も一緒に行くと言ってきかなかったのだ。あれはきっと脅迫のつもりだったのだろうなぁ。だったら一緒に行くが良いと言ったら、目を白黒させて半泣きで『どうか今の話は取り消してください』と訴えてきおったわ。だが退けた。何しろ違法賭博などに手をだしていたのだからな!」
そして水のようにワインをガブ飲みするランドルフ。
「いや〜めでたい! 父上! 今夜は飲み明かしましょう! 実は美味いチーズを隠し持っているのですよ」
「何? それを早く言わんか。よし、オリビエッ! お前も一緒に飲まないか!?」
「そうだそうだ。オリビエ。一緒に飲もう!」
酔いが回ったのか、ランドルフとミハエルがオリビエを酒宴に誘おうとしている。
「いえ、折角ですがお断りいたします。食事も終わったので、私は失礼いたします」
席を立つオリビエ。
「おい、オリビエ」
「どこに行くんだよ〜」
2人の酔っぱらいに返事をすることもなく、オリビエは部屋ヘ戻った――
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