テスパ ~テストパフォーマンス~

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「いいんちょぉお」  登校するだけで汗ばんだ肌のせいで制服が張り付いて気持ちが悪い7月。耳障りな雑音が大人しく一人で読書に励む俺の耳に届く2年A組の教室。登校してから下校まで騒がしい学校というものが小学生の頃から嫌いだった。家で勉強する時のようにノイズキャンセリング機能付きのヘッドホンをして過ごしたい。塾に通っているから授業も進みが遅くて退屈だ。どうして俺はバカなヤンキーがクラスに居るような地域の子どもを寄せ集めただけの地元の公立校に通っているのか。どうして両親は俺に勉強するように言ってくるくせに、志望していた偏差値の高い私立中学への受験をさせてくれなかったのか。それは父親の教育方針によるものだった。父親は中学も高校も地元の平凡な公立校だった。勉強をするのに恵まれた環境だったとは言えなかったが、それでも努力の末、それなりに名門と呼ばれる大学に合格した。そうして自身の成功体験によって俺にも同じ期待を持ってしまったのだ。お金のかかる私立校に通わせなくても、良い大学に入れるのだと。大人しくしておけば授業もさっさと進むし、すぐに帰れるのに、ぎゃあぎゃあ騒がしい「やんちゃ」等と表現される同級生が昔から大嫌いだった。小学5年生になったあたりだろうか、周囲の私立を目指す子が受験の為に塾に通いだした時に俺も同じように私立受験をしたいと父親に頼み込んだ。でもダメだった。 「委員長っ!聞こえてんだろ!宿題見せろって!」  毎度のごとく宿題を見せろとせがむ、この話し方から頭の悪い男子生徒の名は加藤 大地(かとう がいあ)。何だよ大地と書いてガイアって。そもそもガイアって大地の“女神”だろ?俺とは親子揃って話が合わなさそうだ。こんなのに絡まれるくらいなら、いくらでも努力して偏差値の高い私立の学校を目指したのに。きっとこんなのが居ない学校に通えるはずだったのに。 「ほら」  目も合わさずノートを渡してやった。宿題を見せてやったところで俺が損をするかと言えば、ずるいとか、楽しやがってと思うくらいだろうか。そんなの気持ちの問題であって、宿題を見せてやって大人しくなるのなら俺にとってはどうでも良かった。こいつの頭が良くなる訳でもない。むしろ答えだけ丸写ししているのだ。よりバカになってくれるのなら喜ばしいではないか。   「いつもありがとぉお!俺ら親友だもんな!」 「……おう」  こいつと親しい友だなんて気持ちが悪い。名前をロクに覚える気もなく、永遠に委員長と呼んでくるくせに。大体俺はクラス委員長だが、委員長なら他にも保健委員長だの図書委員長だの、いくらでもいるだろうが。ややこしい。そもそも俺がクラス委員長などと面倒くさい役割をしているのは内申の為でしかない。良い成績を取って、こうして不真面目なヤンキーである加藤に宿題を見せて薄っぺらい関係性を築いているのも、全ては次期生徒会長になり、内申を良くする為だ。気に食わないがこの加藤という男、何故か人望が高い。ヤンキーだから情に厚いだとか、幼い妹を保育園に連れてやっているだとか、そんなのが女子どもに刺さったとかそんな理由だった気がする。だからこいつの機嫌を取っておくのは不本意だが必要なことなのだ。
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