テスパ ~テストパフォーマンス~

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「ただいまぁ~」 「……お邪魔します」  加藤に連れて行かれた場所は加藤の実家だった。玄関から既に物が多くてごちゃついている。お邪魔したくない気持ちでいっぱいだったが、意を決して部屋へと上がった。 「てきとーにくつろげよ」 「あ、あぁ……」  案内された加藤の部屋は物に溢れた秩序の無いものだった。くつろげ、と言われても正直言うとカバンを置くのも、床だと思われる場所に座るのも気が引けるレベルだったが、仕方なしに適当に足で物をどかして座り込んだ。 「それで?何で百点取れたんだ?」 「もう本題?お前さぁ、前戯下手だろ」 「は、はぁ⁉」 「何だよそんなんで大声出すなよ。あ、もしかして――」 「う、うるせぇな!早く話せよ!早く帰りたいんだよ!」 「しょうがねぇなぁ」  加藤は部屋の物が溢れた場所へとガサツに手を突っ込むと、そこからクリアファイルを掴みだした。こんなに散らかっているのに物の場所は把握できているのかと少し感心してしまって悔しい。 「これ見ろ」 「……え?これって……」 「今回の社会のテストだな」 「問題は確かにそうだけど……でもこれ、名前は知らない奴だし……てか紙なんか古いよな」 「そう、これは数年前のテスト用紙だから。社会の武田、テストの問題使いまわしてんだよ」 「……は?」 「気付いてなかっただろ?実は知ってる奴が結構いんだよ。でもお前みてぇな友達いねぇし兄弟もいねぇ奴は気付いてないけどなー」  興味無さそうにテスト用紙をヒラヒラと振りながら加藤は話し続ける。武田の野郎、退職間近で浮かれてんのか適当に授業してると思っていたが、こんなところまで手を抜いていやがった。   「何だそれ……そうか、まぁ仲の良い先輩とか兄弟いる奴は気付くか……」 「そういうこと。俺の兄貴より前の世代、いつからかは知らないけどさ、武田が作ったテストの内容全部把握してる訳。そんで適当に売って金儲けしてんだ」 「しょうもねぇ……」 「真面目な委員長には考えつかないだろうけど、内申点とか気にしてんだろうなって奴はちょっと強請るだけで簡単に金に落とすんだぜ?カンニングするよりもリスクないしな」 「一教科ぐらいでそんな……」 「お前くらい勉強できりゃあ関係ないかもしれないけどな。一教科の勉強時間減るだけで効率結構上がるだろ?タイパ最高ってわけ。それに武田ほど腐ってはねぇけど試験範囲なんてそうそう変わらないからさ、教師どもが作る問題なんて似たり通ったりなわけよ。だから武田以外の長くいる奴らのテスト問題も売れる売れる。先輩後輩にも売りつけられるから顧客層も広い。それに料金も良心的!千円!……まぁどの顧客も“ご厚意で”お布施し続けてくれるから潤う潤う!」  加藤はご機嫌にスマホの画面を見せつけてきた。そこには電子マネーの取引履歴が載っており、それなりの金額の入金記録が残っていた。ご厚意でお布施、ね。どうせ親や教師にバラすのを匂わせて払わせているのだろう。 「お前……こんなの俺に話して何なんだよ……俺に何させたいわけ?」 「もっと効率良く稼げる方法を考えて欲しいんだよ。頭良いんだろ?コスパ最高にしてくれよぉ~」 「……告げ口したらどうする?」 「別に良いけど」 「え?」 「良いけど……良いのかな?校長にでもチクるか?時間の無駄だろうな。武田、学校で一番長く居て実質一番権力があるから。顧問してる野球部も成績良くて親からも評判良いからなぁ~。他所から来た若い校長が口出し出来るかなぁ?」 「それなら証拠をSNSに流せばいい」 「お、いいねぇ!一気に有名校だな!……でも、告発者がお前だって、俺もSNSに流しちゃうかもよ?」 「……そうか。なら別に俺は関係ないし、聞かなかったことにするよ。じゃあな」  最初から最後まで下らない話だった。ただ長く続いているだけなのを歴史があるだとか、趣があるだとか良い風に言っているだけの、腐った学校と腐った生徒たちの話を聞かされただけだった。こんなことだろうと思った。だからこんな地元の学校に通いたくなかったのに。 「待てって……生徒会長、俺を利用してなりたいんだろ?」  帰ろうとした足が止まってしまった。振り返ると相変わらず不愉快なニヤケ顔がそこにある。 「何だよその顔。俺がバカだから気付かないと思った?一応社会だけだったけど百点取れるように頑張ったんだぜ?本気出してないだけなの!俺は!」 「……そうか。分かった」 「そこはごめんだろ、お前ぜってぇ謝れねぇ奴だよなぁ!まぁだから気が合うと思ったんだけど」 「そんなこと言われて最悪な気分だよ」 「はっ!言うねぇ!まぁいいや、ってことでどうする?俺み~んなと仲良いから、簡単に生徒会長に出来るし、それに生徒会の仕事だって、俺が呼べば顧客の奴らが”快く”手伝ってくれるぜ?より稼げるように手伝ってくれるなら報酬も弾むぞ!コスパもタイパも最高だろ?どうする?」  加藤が立ち上がり俺と向き合い、手を差し伸べてきた。この手を掴んではいけないと頭では分かっている。しかしどうせ俺は高校はここを離れて偏差値の高い、こんなバカのいない進学校へ行くから。だからそれまでは俺が、このバカを利用してやればいい。 「よし、契約成立ってことで。よろしくな……“親友”」  親しくもなければ友でもない、妙に体温の高い手に包まれた手は、気持ちが悪くて仕方がなかった。
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