02 命の恩犬

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茶々丸と触れ合っていれば、彼は犬の絵柄がついたマグカップにアイスココアを淹れて持ってきてくれた。 「 どうぞ 」 「 ありがとうございます… 」 水以外を飲むのは久々で、嬉しくて両手でマグカップを掴めば、彼はもう一度キッチンへと戻る。 「 少し小腹が空いたから何か食べようと思うけど、君も食べる? 」 「 へ、あっ…大丈夫です! 」 「 そう? 」 お風呂を借りて、手当して貰って、尚且つココアまで頂いたのに、これ以上貰えないと軽く首を振って否定してから、彼が冷蔵庫を開けるのを見て、少しだけ視線を落とした。 「 あ…… 」 グッーと密かになった腹の虫に、そっとお腹を擦っていると茶々丸はゆっくりと立ち上がり、キッチンの方へと向かう。 「 どうした?あ、そう…分かった。ありがとう 」 「( 夕食……作ったのにな… )」 母と妹は、きっと食べてないだろうって思うと、尚更ちょっと落ち込んで、アイスココアを一口飲む。 「 ふぁ、美味しい…… 」 甘いアイスココアが疲れた身体に染み渡って、此れだけで幸せだと微笑んでいると、鼻先を掠めるバターの香りに気付き、無意識に顔を上げてしまう。 「( いい匂いがする…。でも、ダメ…これ以上は… )」 ココアで十分と言い聞かせて、アイスココアを飲んでいると、カタンと目の前に何か置かれた事に視線は落ちる。 「 こう言うの嫌いじゃないといいんだけど 」 「 えっ…… 」 「 夕食の残りで悪いけど、油揚げとツナの炊き込みご飯と肉じゃが。食べてて 」 「 え、えっ……でも… 」 「 沢山作って残ってるからいいよ 」 麦茶の入ったお茶と共に置かれた料理に、直ぐに離れて行った彼に戸惑って、目の前に温め直されて湯気の立った炊き込みご飯と肉じゃがに、生唾を呑み込んだ。 「 ヴォフッ 」 「 えっ……食べろってこと…? 」 じっと我慢してると、僅かに吠えた茶々丸が腕の方へと鼻先を突っ込んで、 腕を端の方へと移動させたのを見て、食事をする様に促してるように思えた。 如何したらいいのか迷って、彼の方を見てると何気無く鼻歌を歌いながら、別の物を作ってる様子に、眉は下がる。 「 せめて…。彼が座ってから食べるよ。ありがとう 」 「 …… 」 茶々丸に御礼を伝えて、頬の辺りの毛を撫でていればその巨体を横たわらせた為に、ご飯から意識を外すように身体やら撫でる。 「 ふわふわ……、あ、もう乾いてる… 」 奥側の毛が湿ってたけど、もう乾いてる事に乾きやすい毛質なんだと思った。 あのマイクロファイバー並みに吸収性の高いタオルで拭けば、そりゃ直ぐに乾くだろうね。 気持ちのいい毛並みを堪能していると、いい匂いがリビングに充満するけど、キッチンは大騒ぎになっていた。 「 煙たっ!!ゴホッ、換気扇回すの忘れてた 」 ちゃんと作れてるから、てっきり慣れてるのかと思ったけど、なんとなくそんな事は無いように思える。 咳き込んでいた彼は換気扇を回し始めて、料理を続けた。 「 よし、出来た。待っててくれたんだ?ありがとう 」 「 あ、いえ…… 」 一人で先に食べる気にならなかっただけで、御礼を言われる程ではないと首を振ると、目の前にはアルミホイルがお皿となってる二匹の子持ちししゃのバタ醤油焼きと紅しょうが入りの玉子巻きが置かれた。 「 ほら、食べよう。いただきます 」 「 はい……。本当に…いいんですか?私の分まで…こんな豪華に 」 「 豪華?そんな事無いけど、全然いいよ。ほら、遠慮せず 」 「 ありがとう、ございます…… 」 バイト先の賄い以外は、ずっと冷たい白ご飯ばかりを食べていたから、こんなにも豪華な物を…それも手作りで食べれるなんて思わなかった。 「 いただきます 」 しっかりと両手を合わせてから、箸を掴んでご飯茶碗を持って一口サイズに摘んで、口へと運ぶ。 「 ンッ……!美味しい…… 」 「 そう?よかった 」 炊き込みご飯の旨味が、咥内に広がって其れだけで鼻先は痛くなって、涙が溢れ落ちる。 「 おいしい、ごはん……。おい、しい…… 」 泣き止んだはずなのに、御飯の美味しさに涙が流れて、片手で頬を拭いては二口目を食べた後に肉じゃがを口に含む。 味の染みた肉じゃがは、祖父の家で食べていたのと似てて、何処か懐かしい気分になる。 「 俺は結構、和食好きなんだけど…君も? 」 「 …ん、好きです。祖父の家でよく食べてたので…子持ちししゃもなんて…贅沢ですね…。いただきます… 」 「 そっか。ジジ臭いなんて言われなくてよかった 」 彼は芋焼酎の缶を開けて、それを一口呑んでは子持ちししゃと玉子焼きを食べていれば、私もゆっくりと味わって食べていく。 「( ししゃも…うまっ…!! )」 濃厚なバターと醤油の香りが凄くマッチしてるし、卵の食感も何もかも良くて目を輝かせて食べてから、ご飯を含む。 「 ふぁっ……。幸せ…… 」 「 半額だったから買ってただけなんだが……。いつもは何食べてるの? 」 何処か遠くを眺めて食べていると、左側にいる彼は芋焼酎を一口呑みながら問い掛けて来た為に、視線を手元に落とす。 「 白ご飯です 」 「 ブッ……ゴホッ!!ごめっ、態とじゃなくて… 」 自身の手元に吹き出した彼に、ちょっと驚いてると芋焼酎なんて濃いめのアルコールが変なところに入ったのか、咳き込んでいるけど其れより背中が痛むらしく、悶ていた。 「 だ、大丈夫ですか!? 」 「 ゴホッ…ゴホッ…う、うん…なんとか… 」  擦ろうとしたけど、片手で止められた為に動くのを止めると、彼は僅かに濡れた手元をウエットティッシュで拭く。 「 白ご飯だけってことは…流石に無いよね? 」 「 だけですよ?祖父が亡くなってからずっとです…。母と妹が食べ終えた後の…冷えた白ご飯を貰って食べてました。其れ以外食べると…怒られるので 」 「 は?そんなの…… 」 「 あ、偶に妹が栄養補助食品とかくれてたし、賄いが出るバイト先だと、色々食べてたので…。でも…ここ三ヶ月は、白ご飯だけだったなって… 」 自分で作った料理ですら、味見を兼ねて食べてたのがバレると叩かれていたから、全く手を付けなくなった。 「 だから、嬉しくって。温かいご飯…久々です。凄く美味しいです! 」 ご飯茶碗を持って口へと運んでいれば、彼は少し私を見詰めてから、視線を外す。 「 こんな事を言うのはあれだが……。君は少し、その母親と距離を取った方がいいかもな 」 「 ……考えた事はあるんですが、独り暮らしする程稼げなくて… 」 「 ……まぁ、月に18万稼ぐのは、少し大変だよね 」 「 そうですね…… 」 お金を稼ぐと言うのはどれだけ大変なのか、それはよく理解してる。 だから、少なからず母が私を置いてくれる事に感謝はしてたけど…其れをどう返したらいいか分からないんだ。 落ち込んでいると、空になっていたアルミホイルの中に新しいししゃもが置かれた。 「 へ……? 」 「 この家、部屋が一つ余ってるから、そこで良ければ貸すことは出来るよ 」 「 ……えっ!? 」 「 但し、泊めるからにはお願いがある 」 「 ………なんですか? 」 驚いたけど、嬉しいって思う気持ちが強くて 其れならどんな言い付けでもやろうって思ってると、彼は横で寝ている茶々丸の背中を撫でては軽く叩いた。 「 茶々丸のお世話を頼みたい 」 「 茶々丸の………お世話? 」 茶々丸って言葉に反応したらしい、犬も顔を上げて、私と一緒に彼を見つめた。
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