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03 無自覚な神使
〜 大輝 視点 〜
仕事から終わった後、いつもの散歩コースとは少しズレた場所を散歩していた。
仕事場で川の水量が多いなんて聞いたから、野次馬のようにちらっと見に行こうとしたんだ。
その時に、急に茶々丸が走り出したから、背中の痛みと驚いてリードの手を離してしまえば、茶々丸は橋の方に行くなり、通常より深い川へと飛び込んだ。
けど、茶々丸より先に川に落ちた影を見たから嫌な予感がしたんだ。
街の明かりでは川をしっかり照らすことが出来なくて、弟の様に大切にしてる茶々丸を失うんじゃないかって恐怖を感じていれば、
水音が立った後に此方へと泳いで来る茶々丸の姿を見て、血の気が引いた。
その背中には、女性の姿があったから…。
でも彼女は咳をしたのを見て生きてる事に安堵したし、茶々丸は毛に覆われてたお陰で傷が無くて本当に良かったと思った。
家に連れて帰った後彼女が全身に傷があることより、酷く窶れて身長より細い事が気になったんだ。
本当は、お風呂を終えて手当てをしたら…
家まで帰すつもりだったけど、普段は愛想が良くないはずの茶々丸と仲がいい事や生い立ちを聞いて、帰す気になれなくなった。
手の掛かる子猫を拾った気分だったけど…。
「 大輝…ちょっと来てくれ 」
「 ん? 」
家にいる彼女に伝える為の手紙を書いていると、茶々丸に呼ばれて手を止めてから、客室の方へと行く。
歯磨きを終え、部屋を貸した後に茶々丸と一緒に寝てたはずだけど?と疑問になってると、
開いた扉の中に入った茶々丸は、ベッドの方へと行くと振り返る。
「 驚くなよ…。俺も驚いた 」
「 何が……?え…… 」
寝てる女性の元に行くのは如何かと思うけど、茶々丸はベッドの側に行くと、シーツへと顎を付けて見詰めた。
ベッドに寝てるのは髪色と目の色が綺麗だと思った女性ではなく……。
「 犬?いや……たぬき?? 」
小型犬ぐらいのサイズの白い獣が寝ていて、
その身体には見覚えのある服や包帯が外れていた。
「 なん、で……?あの子は? 」
「 さっきのメス、この子だ。俺も寝てたら小さくなって驚いた。ほら… 」
「 うそ…… 」
じっと見詰めていた茶々丸は、右脚の方を見せるように服を捲り上げると、包帯が外れたそこには毛が無くなり、痛々しい傷がある。
俺は、幼い頃から何故か動物の声が分かる特殊体質を持っていたが…
こんなのは見たことが無いし、聞いたことがない。
「 この毛色、目の色…恐らく、神使だな 」
「 神使って……神様の使いって言う?でも、彼女……あ… 」
" 祖父が何処からともなく拾ってきた里子なんです "
そんな捨て子なんてあり得るのかと思ったけど、
その言葉が本当なら、理解出来るかも知れない。
規則正しい寝息を立ててる真っ白で毛がボロボロのタヌキを見て、茶々丸は服を元の位置に戻し布団を咬んで軽く引っ張った為に、少し手伝う。
「 俺達、獣の中で…偶に噂を聞くんだ。神様が使いの獣を置いていくと。その獣は真っ白な毛を持ち、蒼い目をしてるのが特徴らしい。このメスを、絶対に助けなければいけないと…俺の本能があの時、身体を動かした 」
茶々丸は突然と走らないし、ましては暗い川に飛び込むような無茶をしないのは知ってる。
だからこそ、彼の言葉は本当なんだろうけど…。
「 …でも、それなら彼女は…神使だと、知ってるのか? 」
「 分からない。だが…雰囲気や匂いは、他のニンゲンとは違うのは分かる。獣とは違う不思議な感じはしてるが…もしかしたら、自覚が無いのかも知れないな 」
「 無自覚なのか…… 」
茶々丸はベッドに飛び乗っては、タヌキの身体に寄り添うように身を寄せるように倒れて、その頭部を舐める。
「 神使ならすぐに分かるさ。悪い事や良い事が続く。神様程の力は無いが……それに似た力は持つのだから 」
「 そう言えば、彼女は…辞めた後にその店も必ず潰れるとか言ってたかな…。後祖父はお金があったけど、母はとても貧乏だったとか… 」
「 ふっ…その母は、愚かだな。神使を大切にすれば富を得るというのに… 」
「 だから、彼女の祖父は…大事にしていたのか。もしかしたら拾った時点で知ってたのかもしれないね 」
愛が叶う…のではなく、
愛すれば叶う、という意味の名前ではないのだろうか。
もしそうなら、彼女の祖父は神使とは分からなくても…
大事にすべき子供だとは理解していたのかも知れないな。
「 そうかもな…。可哀想に……神使は大切にされる獣なのに。俺が愚かな母の分まで可愛がってやるよ 」
「 茶々丸……ずっと、その子を置いておく気?俺は彼女の気持ちが落ち着いたら家に帰そうと思ったんだが… 」
「 こんなガリガリにさせるニンゲンの元なんて帰さなくていい。俺は認めない…この子は、俺の妹にするんだ 」
「( いや、君より年上だけど……でも、神使だから、幼い容姿をしていたのか… )」
窶れていたが、童顔で少し思考も幼い気がした。
それに、何気無く学校や仕事の事を聞くと苦手な理由も、獣なら…人間と一緒に生活するだけで難しいだろう。
「 てか……。めっちゃ玉ねぎとか入ってる肉じゃが食べさせたけど大丈夫!?明日、嘔吐や下痢しないかな…下手したら吐血に血便… 」
「 いや、普通に嬉しそうに食ってたから平気なんじゃ…。あ、幼い頃…身体が弱かったとか言ってなかったか? 」
「 原因きっとそれだよ……。ってことは、耐性ついた? 」
「 かもな… 」
青褪める俺に、茶々丸は可哀想だと呟いて、また毛並みが濡れる程に舐めてるけど、
確かにこんなに毛並みがボロボロで、肋が見える程にやせ細ってるなら、親の元に帰すのは少し後でもいいかも知れない…が。
「 どうしよう…玉ねぎ食わせたからって、不幸にならないかな 」
「 ならないだろ…。なったらネギ類止めたらいい 」
「 それもそうだね…。でも、タヌキか…可愛いね。毛並みがフワフワになったらもっと可愛いだろうなぁ 」
動物は昔から好きだから、タヌキだと分かると増々可愛く思える。
獣医を目指したことはあるけど、解剖実験やら研修の際に、痛がったり怯える動物達の声が苦しくて、
結局、兄達と同じ人間相手の医者になったんだ。
今は…こうして怪我を手当てしたり、治せることが嬉しいと思うぐらいには医者になった事を喜ばしく思う。
「 ふぁー…ごめん。流石にそろそろ寝るよ…藍ちゃんをよろしくね。茶々丸、おやすみ 」
「 任せろ。おやすみ 」
今はまだ、彼女がどんな子か分からないけど…
茶々丸が嫌わない子なら良いと納得して、リビングに戻る。
手紙の続きを書いてから、寝室に行き倒れ込んでは即眠りについた。
なんせ、二時間後には茶々丸の散歩が待ってる。
「 今日は行かなくていい。側に居ると決めたんだ 」
「 ………そう。ならありがたく二度寝するよ 」
うん…それならそうと、寝る前に伝えて欲しかったけど、
いつもより余分に寝れるから二度寝した。
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