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結婚を前提に、という話なのだから、確かに必要な情報かもしれない。
今日初めてあった人とするには恥ずかしい話ではあるけれど、婚約とかお見合いってきっとそういうものだ。
「……恋人も好きな人もいません」
「そう。じゃあそっちを切れとか言う必要はないか。今まで定期的に関係を持った奴とかいる?」
「そ……っう、あの、誰もいなくて……」
「は? ヒートの時に頼る相手いなかったの? 俺も何回か誘われたことあるけど、我慢できるものでもないでしょ」
確かに、そういう方法が一番いいのは知っている。
政府公認でオメガとアルファのマッチングアプリがあるくらいだ。割り切った関係として、ヒート期間中だけ発散する方法を国も推奨している。
首輪をしていれば理性が飛んでも噛まれることはないし、うっかり番になるという事故もない。
オメガ用の避妊薬は100%の効果があるし、自分の番を見つけるまでの一時的な措置として、利用している人は多いと聞く。
結局アルファとセックスするのが一番簡単に欲を満たせるし、その分ヒートの期間も短くて済むのだ。
病院で薦められるのはこの方法だし、悪いことじゃないのは分かってる。
でも……
「他の人、巻き込めないです……そんなの。ヒートが近付くといつも一人で部屋に閉じこもって、薬に頼りながら一人でどうにかして……それで、なんとかなってきたから」
「薬って抑制剤? あんなの全部緊急用で、常用するようには作られてないだろ。過剰摂取は危ないって分かってる?」
「……気を、付けてはいるので」
そこまで話を聞くと、東条は片手で頭を抱えながら深い溜息を吐き出す。
そのまま「分かった」と呟くと、急に手帳を取り出し由莉の前に広げて置いた。
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