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勢いのまま全速力で東条の部屋に向かい、扉の前に着いたところで息を整える。
早く会いたいと思いながらインターホンに手を伸ばしたところで、一度冷静になってしまい、由莉はふと動きを止めた。
(ど、どうしよう。ちょっと突っ走りすぎた……?)
色々と早く伝えたくてそのまま来てしまったけど、冷静になって考えたらシャワーくらい浴びてくるべきだった。
一度帰ってから出直そうかと、そう思いながら足を後ろに引いた瞬間。
勢いよく扉が開き、そこから東条が顔を出す。
インターホンを鳴らしたわけでも、メッセージを送って家に行くと知らせたわけでもない。
それなのに扉越しに由莉がいるのを知っていたかのように、驚いた様子もなく東条の目が由莉を捉える。
「っあ……え? な、なんで」
「君の匂いがした。なんでって、そんなの俺の方が聞きたい」
匂い? と由莉が聞き返す前に、ゆっくりと東条が口を動かす。
微かに戸惑いが滲む声が、じわりと由莉の心に溶けた。
「少しだけど、俺にも君のフェロモン分かる。……番解消した?」
言われた瞬間、考えていた事が全部飛んでいってしまった。
ただ早く知って欲しいと、それだけの考えに脳を占められ、由莉は小さく頷く。
それだけの行動で、東条がどこまで分かってくれたのかは知らない。
しかし頷いた瞬間に手首を掴まれ、気付い時には家の中に引き摺り込まれた後だった。
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